絵というのは不思議なもので、描くことを禁じられると、なぜか次から次へと構想が湧きあがってくるのです。誰のためにでも、何のためにでもなく、ただ、どこかに神の存在を薄ボンヤリと信じて描いているのです。神は絵が下手なので、神に代って描いてあげると思うことでやっと絵が描けるのです。神といえば宗教臭く聞こえますが、そんな何とか教なんてもんではなく、魂の自分がこの世に発生したその根拠みたいなものに対するご奉納ぐらいに考えています。そして世の中を論じる以前に、自分の中身を絵を通して論じるのが画家の宿命であり、運命なんです。ナンチャッテ。

横尾忠則(よこお・ただのり)/1936年、兵庫県西脇市生まれ。ニューヨーク近代美術館をはじめ国内外の美術館で個展開催。小説『ぶるうらんど』で泉鏡花文学賞。2011年度朝日賞。15年世界文化賞。20年東京都名誉都民顕彰

週刊朝日  2022年8月5日号

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