新型コロナウイルスの流行が始まって2年以上が経ちました。その間も、がんになった患者への治療は行われており、いまも入院患者の面会制限は続いています。コロナ禍のがん治療について、近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授の大塚篤司医師が自身の経験をもとに語ります。
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COVID-19の流行とともに、多くの病院では入院患者さんの面会ができない状況が続いています。お見舞いで訪れた人から病院内クラスターが発生した話も聞きますので、患者さんたちを守る意味では面会制限はやむを得ないものでしょう。しかし、患者さんやその家族の気持ちを考えると複雑なものがあります。今回は医師の守秘義務に反さないように、フィクションを踏まえて私の経験をお話ししたいと思います。
安田由美子さん(75歳)が私の外来に紹介されたのは、1回目の緊急事態宣言の最中でした。病名はメルケル細胞癌(がん)。皮膚にあるメルケル細胞という触覚を司る細胞ががんになり全身に転移する病気です。紹介された時点で既に内臓に転移があったためステージ4。いちばん進行した状態から治療を開始することとなりました。
はじめに聞いた安田さんの言葉は印象的でした。
「暗いことばかり考えてても気持ちが落ち込んじゃうので前向きに治療します」
安田さんは言葉通り、いつも明るく、冗談と笑い声が絶えない患者さんでした。
笑うことで免疫の力があがるという説もあるように、安田さんの治療はうまく進みました。医学の進歩は目覚ましい。2018年にノーベル医学生理学賞を受賞したPD-1分子を標的とした免疫療法は安田さんのメルケル細胞癌によく効く治療法だったのです。
内臓にあったがんも検査のたびにどんどん小さくなり、余命数カ月と考えていた最初の頃がうそのように感じました。主治医の私も安田さんやご家族と同じように、このままがんが消えてほしいと心の底から祈っていました。