AERA 2022年5月16日号より
AERA 2022年5月16日号より

 市長と一体となって事件を否定していた学校側だが、実は校長や教頭は問題を認識していた。

 PTSDに苦しむ子どもの医療費として、被害者家族が「日本スポーツ振興センター」の給付金を申請した際、「これからお話しすることは、ここだけの話にしていただきたいのですが、これまでご迷惑をおかけしたので、給付金については私たちがお支払いしたい」と個人的に30万円程度を渡すと打診してきたのだ。家族が「わけの分からないお金はいらないので、きちんと(学校が)事故報告書を書いて、スポーツ振興センターに申請書類を上げてほしい」と求めたが、学校側は申請書をセンターに上げなかった。一連の対応を貫くのは保身以外の何物でもない。

■放置や隠蔽は違反、文科省は“保身”に釘

 新法が今年4月から施行されるのを前に、文科省は3月18日、基本的な指針を示した。その中では、「教育職員等による児童生徒性暴力等の事実があると思われるときの措置」として、「法の目的や基本理念も踏まえ、被害児童生徒等を徹底して守り通すことに留意して行われなければならず、悪しき仲間意識や組織防衛心理から事なかれ主義に陥り、必要な対応を行わなかったり、躊躇したりするようなことがあってはならない」と明記された。

 学校の管理職や教育委員会に対しても、「必要な対応を行わず、放置したり隠ぺいしたりする場合には、この法の義務違反や、信用失墜行為として地方公務員法による懲戒処分の対象となり得る」と釘を刺している。

■被害者が声を上げやすい社会をつくるために

 相次ぐ性暴力への無罪判決への抗議から始まったフラワーデモが4月11日、4年目に入った。この日も中学時代の教師から受けた性暴力について訴える被害者の姿があった。

 今回、学校現場で実際に起きた事件を被害者の母親からの視点でまとめた『黙殺される教師の「性暴力」』を執筆しながら、「もし自分がこの事件の学校や保護者、地域住民としてその渦中にいたら、どこまで子どもたちの訴えに敏感でいられただろうか。自分の中にも『黙殺』が潜んでいるのではないか」と問いかけ続けた。

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