ルポライター・朝山実さんの書評。今回は『キッチンミノルの写真教室』(キッチンミノル著、筑摩書房/1980円・税込み)について。
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著者は春風亭一之輔に密着したり、いろんな家族の団らんを撮ったりしてきた写真家。
テキストとして自身の作品を挙げながら、露出などの細かいデータは載せず、「あしたのジョー」で丹下段平が書き送ったボクシングの極意のように「基本」を平易に説いていく。たとえば子どもの目線に合わせて、腰を下ろすかどうか。被写体の目線の上下で見えてくるものは異なる。舞台に出ていく一之輔の緊張感漂うローアングルの一枚は、「虫」の眼で、カメラを床に置いて撮ったという。
質問コーナーもいい。寺の門で撮った子どもは米粒で、頭上の提灯は巨大。「両方いれたのが良くなかった?」の質問に、「ググッと子どものほうに行ってください」。足元から見上げるように撮れば提灯も写るし「なんならお父さんも一緒に写ってしまいましょう」。文章に妙味がある。(朝山実)
※週刊朝日 2022年5月20日号