
20世紀の巨匠イングマール・ベルイマン監督が晩年を過ごしたこの島に、映画監督のカップルが創作活動のために滞在する。著名な監督であるトニーに比べ、年若いクリスは執筆がはかどらない。が、やがて彼女は島からインスピレーションを得て、かつての恋愛の思い出を書き始める──。新連載「シネマ×SDGs」の4回目は、自身も主人公と同様に島に滞在して制作した映画「ベルイマン島にて」のミア・ハンセン=ラブ監督に聞いた。
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私の映画には常に自分の人生が反映されています。映画を通じて美に対する感性を育み、自身の人生に対する理解を深めてきました。私にとって映画と人生は切り離せないものです。振り返ることで悲しく残酷でつらいこともあるのですが、それも人生の一部。私はこの映画を通して「私にとってインスピレーションとはなにか」「映画がどのように作られていくのか」を見せたいとも思いました。

この映画は主人公のクリスと同様に私自身が「ベルイマン・エステート」というプロジェクトでフォーレ島に滞在して作り上げました。10年ほど前からベルイマン作品や人生に強く惹(ひ)かれ、同時にこの島に惹かれるようになりました。

売れっ子の映画監督であるトニーとは違い、クリスは監督としてはまだ道半ばです。彼女はベルイマン監督を敬愛していますが、劇中で9人の子どもの子育てを妻に任せて創作をしていた彼に疑問を持つ発言をします。彼女は「実人生と作品(創造)を両立させる」を持論にしており、私も同様です。

これまでアート界においても「妻が子どもの世話をするのは当たり前」という風潮がありました。でも最近、フランスでも社会の流れが少しずつ変わってきています。私自身も創作と子育てをどちらもあきらめることなく、両立することに努力を払っています。

若いころは両立なんて不可能だと思っていましたし、そのふたつが敵同士のように闘っていた感じでした。でも最近は少しずつうまくいくようになってきた気がします。子どもに費やす時間を大切にすることが、創作に生かされていくとも感じています。女性の監督でなければ持ち得ないような視点を映画に生かすことでも、ある意味、両立させることができているのだと思います。
(フリーランス記者・中村千晶)
※AERA 2022年5月16日号