加えて両県とも近年、指導や監視を強めているようです。鹿児島県は2018年に基準を改定し、それまでは認めていた筋胃(砂のう、砂ずりや砂肝と呼ばれる)とレバーの生食用提供を除外しました。また、「(1)一般的に食肉の生食は食中毒のリスクがあること、(2)子供、高齢者、食中毒に対する抵抗力の弱い人は食肉の生食を控えること」を表示するように求めています。実際に、店でこうした表示が行われているそうです。
鹿児島県内の食鳥処理企業や鶏肉店なども業界団体を設立して衛生講習などを重ねており、試験に合格した人や店を「鳥刺しマイスター」「鳥刺し優良店」として認証するなどしています。
全国で加熱用鶏肉が生で提供されている
では、ほかの地域の生食はどうなっているのでしょうか。以前は鹿児島や宮崎の食文化だったのが、今では全国の飲食店に広がったらしく、インターネットで検索すると提供店が大量に出てきます。
鹿児島や宮崎以外の地域には生食用基準はなく、生産されている鶏肉はすべて加熱用です。店によっては、両県の生食用鶏肉を取り寄せているのかもしれませんが、それで間に合う店の数ではなく、加熱用の鶏肉が生食として出されています。鹿児島でさえ生食対象から除外したレバーや砂ずりの刺身を提供する店もあります。
厚労省は、飲食店に対して「加熱用や用途不明の鶏肉は生食用に使用してはいけません」と呼びかけているのですが、効き目がありません。取材した自治体の職員からも「店に注意してもぜんぜん聞いてもらえない」という愚痴が聞こえてきます。
消費者の需要があれば提供してしまう店舗はなくならない
店側に食品衛生の知識が不足していることに加え、食中毒患者が出ても数日の営業停止では処分が軽すぎるという見方もあります。
とはいえ、消費者からの需要もあり人気になるから店も出してしまう、という面もあります。自分は大丈夫とか、感染しても軽く済むなどとたかをくくっている人も少なくないのではないでしょうか。ですが、カンピロバクターの食中毒を甘く見てはいけません。
私が知る微生物学者の多くは「鶏肉・内臓の生食は危なすぎる。国が禁止すべきだ」と言います。食文化という見方にも否定的な人が少なくありません。ただし、国が禁止しても実効性があるとは言い切れません。
いま現在でも、禁止されている牛レバ刺しをこっそり提供している店が後を絶ちません。生レバーと卓上コンロを一緒に出して、消費者に「焼いてください」と言えばよいだけなのですから。牛レバーで一番怖いのは腸管出血性大腸菌。この菌でこれまでに死者が何人も出ています。そして、それでも食べたい人がいるのです。