図2/マーケティング5.0の5つの構成要素(『コトラーのマーケティング5.0』35ページより)
図2/マーケティング5.0の5つの構成要素(『コトラーのマーケティング5.0』35ページより)

 今後のマーケティングが目指すべき方向は、デジタル・テクノロジーに頼りきるのではなく、人とテクノロジーが協力し、デジタルとフィジカルを融合させていくことだとしています。その実例として挙げられている、人間とコンピューターが自由にチーム編成して戦うフリースタイルというチェス競技のエピソードは、非常に興味深いものでした。

■日本企業はマーケティング5.0をどのように活用すべきか

 企業にとってデジタルへの投資は避けて通れない道ですが、デジタルは“魔法の杖”ではありません。「何を省力化し、何を効率化するのか」をきちんと考えて行わなければ、投資に見合ったリターンは望めません。

 日本の内閣にデジタル庁ができたように、デジタル化推進のためのセクションを設けることも一つの方法でしょう。重要なのは責任者に誰を置くかで、できれば企業の現場の業務を知悉し、かつITの能力も高い人材がベストですが、なかなか得難いのが現実です。

 また、マーケティング3.0、4.0と同様、『コトラーのマーケティング5.0』も普遍性の高い議論が中心であり、それをどのように企業の実務に落とし込んでいくのかは、それぞれの読者に委ねられています。自社の事業をデジタル化の波に乗せていくためにはどうしたらよいのか。そのためのヒントを本書から受け取っていただければ幸いです。

■新型コロナ、ウクライナ侵攻とマーケティング

 2020年から始まった新型コロナウイルス感染症のパンデミックでは、社会も経済も大きな影響を受け、マーケティングの世界でもコロナ禍へどう対応していくかが話題になりました。しかし、もっと長い目で見ると、それ以上に脱マテリアリズムへ、所有からシェアリング・サブスクリプションへなどといった流れのほうが、より根本的な潮流と言えるでしょう。

 私たちは、こうした流れを「リキッド消費」という言葉で呼んでいます。デジタル化に伴って、私たちの価値観や意識は大きく変化しており、それが新しい消費行動となって表れているのです。マーケティング4.0や5.0の背景にある、こうした大きな潮流を見逃してはいけません。

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コロナ禍にウクライナ侵攻でどう変わるのか?