図1/5つの世代とマーケティングの進化(『コトラーのマーケティング5.0』63ページより改編)
図1/5つの世代とマーケティングの進化(『コトラーのマーケティング5.0』63ページより改編)

 その部分を補い、デジタル・テクノロジーがマーケティングに与える影響に着目して書かれたマーケティング論が2016年に発表された『Marketing 4.0』(邦訳『コトラーのマーケティング4.0 スマートフォン時代の究極法則』、2017年刊)です。「カスタマー・ジャーニー」という言葉に象徴されるように、デジタル時代における顧客行動の変容を捉え、そこに効果的にアプローチする方法を論じています。

 本書『コトラーのマーケティング5.0』では、IoTやAIといったマーケティング4.0発表以降のテクノロジーの進展を踏まえ、4.0では語り尽くせなかった内容を取り上げています。マーケティング3.0と4.0の延長線上にあって、両者を統合したマーケティング論と言えるでしょう。

■コトラーの分析、理論、モデルの新しさ

『コトラーのマーケティング5.0』では、前半でジェネレーションギャップ(世代間ギャップ)や社会の二極化、デジタル・ディバイドなど、マーケティング論のベースとなる社会の変化や課題についての分析を行っています。

 たとえばジェネレーションギャップの分析では、最近の話題の中心である1997年から2009年生まれのZ世代までに留まらず、さらにその下、現実にはまだ生まれてない年代をも含む、2010年から2025年生まれのα(アルファ)世代にも言及しています。

 後半ではそうした社会の変化を踏まえ、デジタル・テクノロジーを取り入れた具体的なマーケティングの進化について論じています。

 マーケティング5.0を構成する要素として以下の5つ、

・データエコシステムに立脚した「データドリブン・マーケティング」
・予測分析ツールを用いる「予測マーケティング」
・顧客個人や状況に最適化されたやり取りを提供する「コンテクスチュアル・マーケティング」
・チャットボットなどを利用するとともに、そうしたマシンや技術との共生を訴えた「拡張マーケティング」
・市場の変化に迅速に反応する「アジャイル・マーケティング」

 を挙げ、その考え方と適用例が語られています。デジタル・テクノロジーによって利用可能なデータが飛躍的に増加したことが新たなマーケティング手法の進化を支え、それがアジャイル・マーケティングに至る道であるというのが、コトラーの主張です。

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今後のマーケティングが目指すべき方向とは