サッカーの三浦知良選手は55歳の今も現役でプレーし、48歳のイチロー氏も草野球をハツラツと楽しんでいる。さらに上を見ると、日本の超高齢者が世界記録を出すなど元気なニュースが飛び交っている。「高齢者は体力がない」は今は昔と言えるのか。背景を探った。
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2021年8月、男女満18歳以上が年代別に記録を争う「マスターズ陸上」の青森大会で、同県在住の90代の男性4人が400メートルリレーおよび1600メートルリレーでM90クラス(90~94歳)の世界記録を更新した。1600メートルでは、従来の世界レコード(12分41秒69)を3分近く縮める9分56秒36を記録する快挙だった。日本マスターズ陸上競技連合事務局の内田眞一氏がこう語る。
「90歳以上の高齢者は400メートルを続けて歩くのも大変で、400メートル競技に参加される方自体、非常に少数です。また、国内マスターズのリレーのメンバーは同一都道府県内で組まないといけません。400メートル走れる90代を4人集めることは非常に困難です。それが青森県で、完走できるメンバーが4人集まりました」
医師で東京陸上競技協会医事委員長の三橋敏武氏は、年齢による体力の低下をこう説明する。
「一般的に筋力は加齢によって直線的に低下し、30歳を100%とすると70歳では40%になる。上肢より下肢のほうが低下の幅が大きいです。呼吸機能も、最大換気量を20歳代で100%とすると、60歳代で男性は64%、女性は36%まで低下します。最大酸素摂取量も約65%に低下します」
90代になればなおのこと筋力も呼吸機能も衰え、400メートル走は至難の業のはず。内田氏は“青森の奇跡”が実現した背景をこう推察する。
「トレーニング方法は30~40年前に比べて進歩してきています。例えば、今60歳の方が学生のころにやっていたトレーニングとはメニューが様変わりしているはずです。トレーニング方法自体、昔はコーチや学校の先生に直接教えてもらうだけでしたが、今はYouTubeやSNSで参考にできるトレーニングがいろいろ学べます。用具も進歩していて、最近話題になっている厚底シューズを履いている方もいます。記録との関連を裏付けるデータこそありませんが、コロナ禍で競技大会の開催数が減っている今も、日本記録の更新数などを見ると皆さん健闘しているのがわかります」