むしろ、大いに先行きを注視すべきは日本だ。世界的な原材料価格の高騰は今後も続きそうで、岸田文雄首相は今月9日のG7でロシア産原油の禁輸方針を表明。20年ぶりの水準となる超円安も進むが、その流れも続くのだろうか。
「為替相場の主要な変動要因として挙げられるのが2カ国間の金利差です。米国が利上げを進める一方で日本が現状の金融緩和策を維持すれば、日米の金利差は拡大します」(益嶋さん)
他に注目すべき変動要因が見当たらない場合、金利の高いほうの通貨が買われ、低いほうの通貨が売られがちだ。言い換えれば、今後もドル買い・円売り(ドル高・円安)方向に圧力がかかりやすいわけだ。
「米国が金融政策でドルの流通量を減らそうとしているのに対し、日本は円をどんどん流通させる手を打っています。希少価値が増すドルが高くなり、希少価値が下がる円が安くなるのは自然な流れです」(同)
そうなると、日本国内において現実味を帯びてくるのがスタグフレーションの発生だ。スタグネーション(景気低迷)とインフレーションを合成した言葉であることからも想像できる通り、景気が悪化する中で物価の上昇が進む現象を意味する。
本来なら、景気が悪化して需要が減少するとモノやサービスの価格には下落圧力がかかる。通常ならデフレに陥りやすいのだが、不況下でも供給サイドに問題が生じて原材料価格が上昇し、それに伴って物価が上昇するケースがある。つまり、コストプッシュ型のインフレだ。
景気低迷下でこの現象が発生すると、スタグフレーションに陥るリスクが高まる。1970年代のオイルショックがもたらしたインフレがその典型で、当時の日本はスタグフレーションに見舞われていたといえる。足元の情勢はそこまで深刻でないものの、今後の物価動向次第では危機の再来も現実味を帯びる。(金融ジャーナリスト・大西洋平)
※AERA 2022年5月23日号より抜粋