第4次中東戦争の勃発を受けてサウジアラビアをはじめとする産油国が減産を実施し、数カ月のうちに原油価格が約4倍に急騰した。原油のほとんどを輸入に頼る日本にとって、ダメージは強烈だった。石油化学製品などにもコスト高が波及し、便乗値上げも続出。パニック的な買い占め騒動も勃発し、トイレットペーパーなどの生活必需品が品薄になった。その結果、73年の消費者物価指数は前年比11.7%の上昇を記録。翌年には23.2%もの高騰を示した。
一方、80年代後半のバブル景気を連想する人もいるだろう。不動産や株式などの資産価格が派手に上昇した。だが、消費者物価指数は比較的落ち着いている。高騰したのは不動産や株式などに限られた話で、いわゆる「資産インフレ」と呼ばれる現象だった。
だが、バブル崩壊で地価や株価は急落し、「資産デフレ」に転じた。不良債権が大量に発生して景気が著しく悪化。やがて日本経済全体がデフレスパイラルの泥沼に転落していった。
■インフレの理由が重要
ただ、「狂乱物価」と「バブル」は、どちらも初期段階は好況下にあったのも確かだ。景気の過熱(過剰な投資)が物価や資産価格の上昇を加速させたという側面がある。さらに、益嶋さんは次のように説く。
「重要になってくるのはインフレが進んでいる理由です。“よいインフレ”と“悪いインフレ”とも表現されるように、理由の違いで二つのタイプに大別できます。一つはデマンドプル型。もう一つはコストプッシュ型と呼ばれるものです」
前者はその名のごとく、デマンド(需要)の拡大がプル(牽引=けんいん)するというメカニズムで発生する物価上昇だ。中学校の教科書にも出てきた通り、多くのモノやサービスの値段は、需要曲線と供給曲線が交わる(均衡する)地点で決まる。
需要の拡大とは、通常より多くの量が世の中で求められている状況を意味する。その結果、需要曲線は本来の位置よりも右上にスライドし、供給曲線との均衡点(価格)が上昇する。
後者のコストプッシュ型は、コスト(原材料価格)の上昇が価格をプッシュ(圧迫)する現象を指す。コスト増に伴って供給曲線が通常よりも左上にスライドし、均衡点(価格)が上昇する。