■強い米国、危うい日本

「ともに物価が上昇傾向を示しているとはいえ、日本と米国では事情が大きく異なります。日本はコストプッシュ型の色彩が濃く、原油をはじめとするエネルギーや原材料の価格が世界的に高騰している中で、さらに急速な円安(輸入物価の上昇)も進み、コストの上昇に拍車がかかっています」(益嶋さん)

 日本銀行の黒田東彦総裁がデフレ脱却のための具体的な目標値として掲げてきたように、物価上昇率2%程度の巡航速度でデマンドプル型のインフレが進むのは、景気の拡大を意味するので好ましい現象だと考えられている。コロナ禍に見舞われる前の米国は、まさにその状況だったと益嶋さんは指摘する。

「もともと米国はデフレに陥っておらず、マイルドなインフレの状態を実現していました。ところが、コロナ禍の経済封鎖によって2千万人の雇用が一瞬にして喪失。そこで、米国経済のクラッシュとデフレを防ぐために、大掛かりな金融緩和と財政出動を断行しました。失業者に就労時の所得を上回る一時資金を支給するなどの大盤振る舞いを行った結果、昨年ごろから景気が過熱気味でインフレが加速するようになったわけです」

 米国の中央銀行に相当するFRB(連邦準備制度理事会)が5月4日に0.5%の利上げに踏み切ったのも、インフレの進行を憂慮してのことだ。ウクライナ情勢という不透明要因も抱えているが、景気の過熱に対してブレーキを踏む必要があったわけだ。米国の株式市場は利上げ加速の観測を悲観して急落したが、益嶋さんはこう述べる。

「金融緩和から金融引き締めへと転じた当初は急落するものの、やがて持ち直して追加利上げが続く中で、株価の上昇が続くというのが過去のパターン。なぜなら、中央銀行が追加利上げを進めるのは、景気の拡大が続いていることを意味するからです」

■危機の再来もありうる

 ニッセイ基礎研究所金融研究部上席研究員でチーフ株式ストラテジストの井出真吾さんも、米国経済は堅調だと訴える。

「IMF(国際通貨基金)が4月に公表した2022年の経済成長予測でも、前回(1月)から日本が0.9%、欧州が1.1%の下方修正だったのに、米国は0.3%の引き下げにとどまりました。インフレは進んでいるものの、賃金も上昇しており、米国では需要が旺盛です」

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