歴史的な円安に、ロシアのウクライナ侵攻に端を発するエネルギーや資源の高騰。物価はどんどん上がるけど収入は増えない。インフレ時代に備えるために、まずは“相手”を知ろう。AERA 2022年5月23日号の特集「資産防衛」から紹介する。
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長く続いたデフレ(デフレーション)が終わり、インフレ(インフレーション)時代に突入する可能性が高まっている。
「脱デフレ」は日本の悲願と言われてきただけに、インフレを好ましいと受け止める人もいるだろう。だが必ずしもそうとは言えない。目の前で起きている変化を冷静に見定めるためにも、デフレやインフレの本質をきちんと理解しておく必要がある。
「デフレとは物価の下落が続いていく現象。デフレ下では、お金を使わない(買い控えておく)のが賢明な判断でした。待っていればさらに安くなり、キャッシュの価値が高くなっていくからです。お金を持っている人にとっては有利ですが、持たざる人には悲惨な環境です」
こう説明するのはマネックス証券でマーケット・アナリストを務める益嶋裕さん。買い控えがさらなる物価の下落を招き、販売不振による企業業績の低迷で所得が増えず、いっそうの消費低迷(買い控え)を誘うデフレスパイラル(負の連鎖)も発生。こうしたことから「脱デフレ」が叫ばれてきたわけだ。インフレだとどうなるのか?
「インフレとは対前年比で物価が上昇する現象です。物価(モノやサービスの価格)が上がれば、その分だけキャッシュの価値が低下します」(益嶋さん)
物価の上昇が所得の伸びを上回れば、キャッシュの価値が低下する分だけ、私たちの暮らしは厳しくなる。経済が機能不全状態だった終戦直後を含め、戦後の日本は幾度かの深刻なインフレと直面している。最も深刻だったのは1970年代の「狂乱物価」で、口火を切る格好となったのが第1次田中角栄内閣の発足(72年7月)だ。
首相就任前に出版された『日本列島改造論』がベストセラーとなり、その内容に沿った政策の推進を見越した不動産投資が活発化した。地価上昇が顕著になり、消費者物価もそれに連動したうえ、73年10月には第1次オイルショックに見舞われた。