中国の農村で首を鎖につながれた女性が発見された。北京五輪の開催直前に発覚したその事件が中国社会に与えた衝撃は大きい。AERA 2022年5月23日号の記事から紹介する。
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「一歩まちがえれば、鎖につながれていたのは自分だったかもしれない」
同情と憤りと共に、中国の女性たちからそんな声が噴き出し、SNS上にあふれた。
中国東部の江蘇省徐州市豊県で撮影された動画がネットに拡散し始めたのは、1月下旬のことだった。
動画には、農村にある粗末な小屋で、女性が閉じ込められている姿が映っていた。
真冬の寒々しく汚い場所で、女性は薄着のまま首に鎖を巻かれていた。歯はほとんど抜け落ち、話しかけられても相手とうまく意思疎通ができないようにも見える。女性は保護され、病院に収容された。
中国の人びとは、この動画に大きなショックを受けた。女性が“夫”とされる男との間に8人の子どもを持ったあと、こうした境遇に置かれていたことも、衝撃に拍車をかけた。
50代の“夫”は、動画アプリ「TikTok(ティックトック)」の中国国内版「抖音(トウイン)」で、子だくさんの父親として自らをアピールしていた。地元ではちょっとした有名人で、企業の宣伝にも起用されたことがある。
動画は、そうして有名になった家庭の様子をSNSで公開しようと、この家を訪ねたとみられる男性が撮影したという。抖音に投稿されて広がり、誘拐や人身売買、性的暴行の被害者ではないか、という疑いの声が一斉にわき上がった。
「鉄鎖の女性」。女性はそう呼ばれるようになった。
■「一人っ子政策」の影
中国では1980年代、女性の誘拐と人身売買が深刻な社会問題になった。
「一人っ子政策」の影響で男女のバランスが崩れ、女性より男性の数が多くなった農村部で、連れ去られた女性が貧困層の男性と結婚を強いられる事例などが伝えられてきた。
事件の現場となった徐州とその周辺は、そんな誘拐の被害に遭った女性が少なくないと指摘されてきた地域でもあった。