女性は99年7月に長男を出産し、2011年から20年にかけて7人の子どもを産んだ。12年に第3子を出産して以降、精神疾患が悪化したという。今回の動画がきっかけとなり、“夫”は虐待の疑いで逮捕された。
「鉄鎖の女性」は、中国にはびこる誘拐と人身売買の闇を改めてクローズアップさせ、政府も対応を迫られている。
■政府も対応に追われる
全国人民代表大会(全人代、中国の国会に相当)では3月、李克強首相が政府活動報告で「女性・児童の人身売買を厳重に取り締まり、女性・児童の合法的な権利・利益を断固として守る」との方針を示した。公安省は3~12月に、女性や子どもの誘拐、人身売買を集中的に取り締まるという。
「3年以下の懲役」と定められた人身売買の買い手に対する罰則は、軽すぎるのではないかという議論も起きている。売った側と同じく、買った側も最高刑を死刑にすべきだとの意見が聞かれる。
女性権益保障法の改正作業も進んでいる。「地方政府の職員らが業務の過程で女性の誘拐・人身売買の疑いがあることを発見した際には、速やかに公安機関に報告しなければならない」といった内容のほか、学校でのセクハラ防止、結婚・出産を理由にした女性従業員の昇進制限の禁止──などが盛り込まれる見通しだ。
「鉄鎖の女性」の事件は、21世紀のいま、経済発展をとげた中国でこんなことが起きうるのかという驚きの一方で、自分の身に降りかかっていても不思議ではなかったという思いを呼び起こした。
中国が威信をかけて2月に開催した北京冬季五輪と時期を同じくして、人権問題に焦点が当たる事態となった。
■女性との差はわずか
筆者の印象では、五輪以上に社会の関心を集めたと言っても過言ではない。友人知人を含む中国の市民たちが、この事件に関してSNSに書き込んだ内容の真剣さと投稿量には、目を見張るものがあった。
五輪で国民的スターになった女子フリースタイルスキーの谷愛凌(アイリーン・グー)選手と対比させる投稿も目についた。米サンフランシスコで生まれ育ち、中国代表になった谷選手は三つのメダルを獲得した。