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 作家・画家の大宮エリーさんの新連載「東大ふたり同窓会」。東大卒を隠して生きてきたという大宮さんが、同窓生と語り合い、東大ってなんだろうと考えます。2人目のゲストはシンガー・ソングライターの小沢健二さんです。

*  *  *

大宮:聞いてみたかったんですが、大学時代、ちゃんと勉強しましたか。

小沢:駒場(キャンパス)の教養学部時代は、特に授業も先生も大好きでした。

大宮:ええええ!

小沢:大学に入ってすぐ、ある先生に「高校まで習ったことは嘘ですから」って言われて。僕、高校ぐらいのとき、そもそも歴史は国家に都合よく書かれ、あるいは戦争で勝った国家に都合よく書かれ、もっと広く言えば白人至上主義に都合よく書かれ、都合のいい世界観を与えるためにあるんじゃないか、みたいに思ってました。だから、受験では教科書のとおりに答えるけど、おそらくすごく捏造(ねつぞう)されているんだろうな、と。

大宮:うん。

小沢:だけど、どういうふうに、なぜ捏造されているのかっていうのは、高校生じゃ正直、わからないわけで。

大宮:うんうん。

小沢:それが大学に入った瞬間、いろんな先生が話してくださった。

大宮:じゃあ面白かったですね、東大の授業って。

小沢:教養学部の授業は全部好きでした。その時はフリッパーズ・ギターというバンドをやっていたけど、音楽と勉強でもう本当寝る時間ないぐらい、面白い生活だったんですよね。

大宮:文学を学んで、歌詞に影響することもありましたか。

小沢:どっちだろうな。鶏が先か卵が先か。でも、寝ないで音楽やって、寝ないで本読んで、みたいな日々がなければ、例えば「天使たちのシーン」の歌詞はできなかったんですよ。

大宮:そういう意味で言うと、東大で、よかったかもしれないですね。一般教養の好きな科目を取っていいシステムじゃないですか。

小沢:そうそう、あれ大好き。あれはビュッフェですもんね。

大宮:私も、理系だったけど演技論とか取っていました。

小沢:僕も理系っぽいのも取ってました。「科学史」なんかは、つまり西洋史というか哲学史みたいですごい楽しかった。今、学生だったらもっと取りたい授業がいっぱいある。

大宮:2年間、偏りなく、いろんな学問を吸収してたんですね。

小沢:そうですね、本郷(キャンパス)でも印象深い授業はあったんですけど、駒場がすごい好きで。音楽のスタジオって駒場の方にあるじゃないですか。だから駒場の図書館に、卒業するまでずっといましたね。

大宮:まさかそこで作詞してたわけじゃないですよね。

小沢:作詞もしてましたよ、余裕で。昼間は音楽雑誌の撮影をして、夕方から次の日のテストのために駒場の図書館に逃げ込んだり。当時の図書館は2階建てだったんだけど、ああいうのんきな建物じゃなくてさ、高層ビルの36階とかにある会議室みたいな図書館だったらさ、多分入り浸らなかったと思うんだよね。

大宮:本がいっぱいあるのが好きなんですか。

小沢:本がいっぱいあって、しかも自分が持ってない、あの気楽さ。

大宮:ああ、なるほどね。それは何でなんですか、たくさん読みたい本があるから?

小沢:いやもう、わかんない。時間の流れが違うっていうか。

大宮:わかります。なるほどね。やっぱ小沢さん、時間とか空間がやっぱ大事なんですよね。時空を歪(ゆが)めながら生きてるのかもしんない。

小沢:さすが大宮エリー、それだよね。本当そう。だから今もコンサートで何やってるかって、なんか時間空間を一生懸命つくってるんだよね。

AERA 2022年5月23日号