母校、開成学園の音楽室で。高校時代は、数学の研究者か音楽家の二択が将来のイメージだった(撮影/品田裕美)
母校、開成学園の音楽室で。高校時代は、数学の研究者か音楽家の二択が将来のイメージだった(撮影/品田裕美)

 ピアニスト・音楽家、角野隼斗。昨年10月のショパンコンクールでセミファイナルに進出、世界にピアニストとして角野隼斗の存在が周知された。クラシックだけではない。YouTubeでは「かてぃん」の名前で、さまざまなジャンルの音楽を配信し、登録者数は98万人を超える。一つのことだけではおさまりきらない好奇心と、それを最高のレベルにまで持っていく探究心。新しい音楽の世界の幕が上がる。

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 乳白と漆黒の鍵盤の上で、美しい手が舞うように動いている。演奏の主は、優雅で夢見るようなまなざしの青年だ。細く、長い指先が時折、緊張で小刻みに震える。その震えが、古色蒼然(こしょくそうぜん)としたホールで進行中のドラマを伝える。

 昨年10月、ワルシャワで開催された第18回ショパン国際ピアノコンクールは、反田(そりた)恭平、小林愛実(あいみ)と二人の日本人入賞者が出たことで話題を集めたが、同時にセミファイナルに進んだピアニスト、角野隼斗(すみのはやと)(26)の存在が世界に周知される節目でもあった。

「上品で華やか」「ショパンにそっくり」「クラシック界の殻を打ち破る光明」「彼をどう評価するかで審査員も評価される」……。

 コンクール主催者が配信するYouTubeの公式サイトでは、ファーストラウンドから他の参加者を圧倒する259万回の再生数を示し、コメントが続々と付いた。セミファイナルまでの全3ラウンドの再生数は、優勝したブルース・リウの全4ラウンド454万回を超える482万回。

 正統の雰囲気を湛(たた)えながら洒脱(しゃだつ)で現代的、さらに理知的な角野のショパンは、権威の継承ではなく、今、この瞬間をともに生きている聴衆に差し出された、ピアノの新しい地平だった。

「クラシック、ジャズ、ポップス、ゲーム音楽と、垣根を分けないで、自分の興味のおもむくままにピアノを弾いてきた。そのアプローチが、ピアノの神髄(しんずい)であるショパンに通用するのか。コンクールでは、それに挑む気持ちがありました」

 角野が語るように、彼は「角野隼斗」と「Cateen(かてぃん)」という二つの名前を使い分けながら、ジャンルを超えた活動を行っている。舞台はホール、スタジオ、ストリート、自宅とさまざま。ソロあり、ライブあり、コラボありと、形態も自在だ。とりわけ登録者数98万2千人、総再生回数1億回を超えるYouTubeのチャンネルはホームであり、配信という21世紀のテクノロジー&メディアなしに、角野の音楽は語れない。