人間としてのあり方や生き方を問いかけてきた作家・下重暁子氏の連載「ときめきは前ぶれもなく」。今回は、女性首相について。
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その立ち姿は、きりりとして清潔感に満ちている。フィンランドのマリン首相だ。三四歳で首相になり、数々の問題に直面しながら対処してきた。
自然体で余分な気負いがなく、見た目も美しく心地よい。こういう首相を選ぶ国民にも拍手を送りたい。
日本では、河野太郎さんですら、五○代では若すぎると言われ、女性の首相など、手の届く存在ではない。訪日中、岸田文雄首相と並んで、会見をするマリン首相の姿を、羨望と眩しさとともに見守った。
フィンランドのヘルシンキに住む知人によれば、女性が三○代で要職につくことなど、珍しくも何ともないという。
私にも経験がある。
一九九八年、私は日本ペンクラブの一員として、ヘルシンキで行われた国際ペン大会に参加した。
その際、歓迎レセプションを開いてくれたのが、ヘルシンキ市長の素敵な女性だった。五○代だったと思う。産休をとっていた時も、すぐ復帰したという。
その間も、その後も、パートナーが育休をとって十分ケアすることができて何の心配もなかった。市長に限らず、一般女性も同じだという。
日本でもだいぶ改善されつつはあるが、まだまだ時間はかかりそうだ。長年の懸案である選択的夫婦別姓問題ですら、なかなか前に進まないのだから。国民の半数以上がすでに賛成しているにもかかわらず。
いったい何が邪魔をしているのか。女性の登用が少ないのは、そのまま国の考え方の古さを表しているといって過言ではない。
そのフィンランドは千三百キロにわたってロシアと国境を接している。第二次大戦中、ソ連に侵攻された経験から、中立を保ってきたが、今回の無謀なプーチン政権のウクライナ侵攻を見てNATO加盟を決断した。陸続きの場合、その危惧は当然だろう。
世論も今までと変わってNATO加盟賛成が多くを占める。それを見ての決断も早かった。