「喜ばれると思い老女の手作りニシンのパイを孫娘に届けたものの、『私、これ嫌いなのよね』と言われショックを受けるキキ」は「学校公演に呼ばれ『生徒たち楽しみにしてるんですよ!!』と校長に歓待されながら、高座に上がると『はぁ? 落語なんか興味ないし!』と誰も聞いてくれず途方に暮れる若手落語家」とそっくり過ぎて怖い。観ていて「しっかりしろ、キキ(若手)! そんなことで一喜一憂してたらいい配送業者(落語家)になれないぞ!」と言いたくなった。反応に惑わされず、学校公演は粛々と! 配送もまたしかり。時折実家の親が送ってくる「生協で売ってるカリントウ」を受け取るとき、私が残念な顔をしても、ヤ◯トのベテラン安田さん(仮)は「サインくださいっ!」と常に笑顔なのだ。ちなみに安田さんの趣味はソロキャンプだそう。そういえば雑誌で「出会いを求めてソロキャンプ」というコピーを見たが、どういうことだ? 一人になりたいのか、なりたくないのか? 終盤に滑り込みキャンプ。
おちこんだりもしたけれど、私はげんきです。
春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。この連載をまとめたエッセー集の第1弾『いちのすけのまくら』(朝日文庫、850円)が絶賛発売中。ぜひ!
※週刊朝日 2022年6月3日号