春風亭一之輔・落語家
春風亭一之輔・落語家
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 落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「キャンプ」。

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『キャンプ』について書くことがない。この原稿の締め切りが13日の金曜日。映画『13日の金曜日』ってどんな話だったっけ? たしか若者が騒いでるキャンプ場にホッケーマスクを被って、チェーンソー持ったジェイソンがなだれ込んできて大暴れ……? あ、『キャンプ』が出てきた。昔「ジェイソンのチェーンソーは『ジェーソン』(ディスカウントショップ)で買ったのかな?」なんて半笑いで言ったら、映画好きの友達に「ジェイソンはチェーンソーじゃないから。チェーンソー使うのは『悪魔のいけにえ』のレザーフェイスだから。勘違いしてる人、よくいるよね」と直されたことがあった。やっぱり知ってるつもりでいるのってよくない。ちなみにジェーソンはキャンプ用品も各種取り揃えております。よし、これで3キャンプ目。

 先日『魔女の宅急便』を初めて最後まで通して鑑賞。今まで何十回とトライしても必ず途中でウトウトしてしまう。私にとって相性の悪いジブリ作品。毎回、気がつくとキキがカラスに襲われ、また気がつくとニシンのパイを高慢な娘に拒否されムッとして、気がつくと飛行船が強風で流され、そしてユーミンでエンディング。それでも毎年のようにテレビ放映されているので、わかったつもりになっていた。これはよくない。

 鑑賞してわかった。「キキ=若手落語家」じゃないか! 「修業のために住まうべく、まだ魔女の居ない街を探すキキ」は「修業のためにネタおろしをすべく、まだ同業者が落語会を開いていない蕎麦屋や居酒屋を探す若手落語家」と同じだ。それに「修業の場=キャンプ」とも言えるのではないか。忘れた頃に再『キャンプ』だ。

「老女の家に、これまた老女がお手伝いさんとして雇われていて、キキがパイ作りを手伝う」のも「凄いお爺さんの噺家の弟子も、もう既にお爺さんでそこに若い子が間違って入門してしまい、師匠と兄弟子の2人分世話しなければならない」状況に似ている。

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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