「『後期高齢者』という言葉通り、一段階ガタッと衰えるんだよね(笑)。そうなると死ぬことがあまり怖くなくなって、衰えていく自分を楽しめるようになる。死生観や宗教的な救いを求めたりして、自分を型通りに収めなければ、いろいろ発見がありますよ。その方が面白いんだから」

 老人でいることにはもう飽きたので、これからは「もうすぐ死ぬ人」として生きたいと話す。

「老人のまま死になだれこむのはつまらないでしょう。老人と死の間にもうひとつ段階をつくって、そこで何ができるかを考えてみたい」

 いま読んでいるのは、数学者の森田真生ら30代の書く文章だという。

「私たちの若い頃は革命が中心にあり、その後は経済の時代が続いたけれど、彼らは地球的な規模で物事を考えている。大学や出版が衰退した後に生まれた新しいインテリという感じですね」

 本書と同時に、1970年代以降の文章をまとめた『編集の提案』(黒鳥社)も刊行。その編者(宮田文久)も30代だ。

「こういう人たちが出てきたことは面白いね。もうすぐ死ぬ人としては、自分がいなくなった世界にポジティブな印象を持ちたいじゃないですか」

 明日は84歳になるという津野さんは、昔と変わらない声で笑った。(南陀楼綾繁)

週刊朝日  2022年6月3日号