「REACH OUT」の新作のミニチュア版を手にする木梨さん(撮影/写真映像部・戸嶋日菜乃、スタイリスト/大久保篤志)
「REACH OUT」の新作のミニチュア版を手にする木梨さん(撮影/写真映像部・戸嶋日菜乃、スタイリスト/大久保篤志)

「港区の児童作品展の審査員をしているんだけど、その年齢の絵って発想力がすごい。すごく自由。あこがれるのは小学3年生の『狙ってない発想力』だね」

 型にとらわれない木梨さん。自身の展示には、手をモチーフにした「REACH OUT」シリーズを板金で組み立てる巨大オブジェも登場する。現在、組み立てている最中だ。いまは、2メートルぐらいの高さだが、最終的には3メートルを超える高さにしたいと話す。

 この「REACH OUT」は、もう20年以上続けている作品のシリーズだ。REACH OUTとは、文字通り「外に向かって手を伸ばす」という意味から、「触れる」「連絡する」「訴える」など様々な意味を持つ言葉だ。

 昨今、「触れる」ことができない世の中における「REACH OUT」の作品は、どのような意味を持つのか。

「外に手を伸ばす、手をつなぐ、その両方の意味が込められています。困った人には、助けるための手を差し伸べ、いつか手を伸ばし返す。実際には手を触れることができなくとも、人と人が手をつなぐ大切さは変わらないですから」

■「まさか、出さないよね」と、安田成美さん

 コロナ禍の2020年、巡回中だった全国美術館ツアーはいったん延期。あれから2年を経たいま、タイトルの「Timing(タイミング)」に込めたメッセージに変化はあったのだろうか。

「このコロナ禍に世界中で混乱が起きました。触れ合うことが良くないことに変わるなど、あたり前だと思っていた価値観さえ変わりました。でも2年が経ち、ようやくコロナ禍にも切り返しが見えてきた。この22年はいろいろなことで方向転換の時期じゃないのかな。俺はなるべく物事を良くとらえるようにしている。『新しいタイミングが来たんだよ』というメッセージを込めたい」

Walking footsteps 歩み 2018年  (C)NORITAKE KINASHI
Walking footsteps 歩み 2018年  (C)NORITAKE KINASHI

 展覧会のコンセプトや展示方法などを決めるのは木梨さん本人。しかし、作品へのアドバイスを含めて影響力を持つのは、妻の成美さんだ。

 成美さんは、女子美術大学付属高校の出身。美術方面の知識の下地がある。

「成美さんがアトリエの階段をトントントンとのぼってきて、『まさか、これいまのまま(木梨憲武展に)出さないよね』って。俺も、『いっ、いや、もちろん出さないよ。うん』て、慌てて返事したり(笑)。自宅に作品を持ち帰ることもありますが、ドキドキして反応を期待していても、スーッと作品の前を通り過ぎることもあります。その反応も面白いんですけどね」

 そう笑みをこぼす。

次のページ
木梨憲武の相談相手は、北島三郎さん