
1924年、英国中のメイドが年に一度の里帰りを許される母の日。ニヴン家で働くジェーンは孤児ゆえ帰る家がない。そんな彼女のもとへ隣家の跡継ぎで幼なじみとの結婚式を控えたポールから誘いがかかる……。今、小説家になったジェーンは、自身の人生を変えた一日を振り返る。──。連載「シネマ×SDGs」の7回目は、生まれと教育レベルにハンデのある女性が人生を切り開いていく物語「帰らない日曜日」のエヴァ・ユッソン監督に話を聞いた。
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脚本を読んですぐに「この映画は私のために用意されたものだ」と返事をしました。

主人公のジェーンは小説家になって成功します。社会階級が低い人がアーティストになるということは、ある意味、自分がすばらしい存在であると認識することから始まります。アーティストは世界の見方が違う存在です。世界の分析をする、扉を開く。そこを認識できるかどうか。ジェーンは女性であり孤児であり使用人ですが、そこから自分を離して小説家として認識することで進んでいきます。

私も「創作しなければ」という衝動は覚えていますし、それが私にとって生きていくための唯一のオプションのように思います。ある意味、暴力に満ちた世界にあって、2022年のフランスにいることは恵まれた環境にあるとは思いますが、フランスには女性嫌悪的な風潮がまだまだあります。

今回の撮影現場でも緊張が走ったことが2回ありました。お願いをしても断られたので、その人の目を見て、「この映画は誰が監督をしているの?」と。やはり自分が船長であることをきちんと言わないとわかってもらえません。女性監督ならではの問題です。

もう一つ、子どもがいる女性監督の難しさも痛感しました。撮影地の英国に息子を連れていったんですが、コロナ禍で普段受けられるようなサポートが受けられず、ナニーも次々と辞めていく。息子の学校が終わる30分前に迎えに行けないという電話があった時は撮影の真っ最中。船長が船を下りるか乗り続けるか、悲劇的な状況になりました。結局、解決を申し出てくれたのは70代の男性スタッフ。味方となってくれる男性もいるのが世の中の不思議なところ。“罠(わな)”はまだまだ多いですが、創作をし続けるのみです。
(取材/文・坂口さゆり)
※AERA 2022年6月6日号

