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 声優業をしながら2013年に46歳で東大に入学し、2020年に卒業した佐々木望さん。なぜ、社会人になってからの学び直しを決断したのだろうか。AERA 2022年6月6日号で、佐々木さんが東大を志望した経緯、法学部を選んだエピソードなどについて語ってくれた。

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──声優の佐々木望(のぞむ)さんは、46歳で東京大学に入学した。

佐々木:声の仕事を始めて10年以上たった頃、声の酷使と疲労が重なって声帯を痛めた時期がありました。若くしてデビューしたこともあり、発声の十分な基礎ができていなかったんだと思います。

 色んな資料を集めて、発声方法を学ぶうちにのどの状態は安定してきました。ただ、知識を吸収しては実践する生活を続けていると、「のども治ったし、もう学ばなくていいよね」とは思えない自分がいて。洋書や海外サイトを参考にするうちに、前から好きだった英語も勉強してみようと思ったんです。

 英語力の目安として、英検1級や全国通訳案内士の試験にも合格しました。今度はアカデミックな英語を学びたい気持ちが膨らんで、色々な大学のキャンパスなどで開講されている社会人向けクラスに数年間通いました。出入りするうちに大学生という立場への憧れも出てきて、受験を決めました。

 仕事の合間に通うことになるので都内の大学を、卒業まで勉強を継続できるかどうかわからなかったので、学費の面でも国立を選びました。最初は外国語大学を考えていましたが、英語だけじゃなく未知の世界に飛び込んでみようと思い、目標は高く、と東京大学を志望しました。

──東大文科一類に入学後は文学部に進むつもりだったが、選んだのは法学部だった。

佐々木:東大では、2年まで駒場で学んで、3年で本郷に移るときに学部を決める進学振り分け制度というものがあります。文科一類はほとんどの人が法学部に進学しますが、自分は文学部で言語や演劇を学ぶつもりでした。でも、文科一類の必修科目だった法学の授業を担当された先生がとても魅力的で。内容は高度なので、ちんぷんかんぷんだったけれど、先生のお人柄や求心力がすごかったんです。

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