──対話の窓口は開けてあるということ?
「そうですね。歯舞群島にある貝殻島周辺でのコンブ漁の交渉も例年より遅れましたが、6月3日に妥結しました。日本は北方領土を巡って、元島民の切実な願いや、漁業関係者の生活がかかっていることを忘れてはなりません」
──外務省が公表した今年の外交青書では北方領土について2003年以来、19年ぶりに「ロシアに不法占拠されている」と明記。岸田文雄首相も「わが国固有の領土」だと強調しています。
「政権が代わったら、表現も変えるというのは賢い方法ではありません。何も冷戦時代の表現に戻す必要はないでしょう。安倍(晋三)首相時代にはそうした表現は避けてきました。特に橋本龍太郎、小渕恵三、森喜朗の3人の首相時代は、日ロ関係は良好でした。
最も北方領土返還が近づいたと思ったのは、01年3月の森・プーチン会談での『イルクーツク声明』でした。歯舞と色丹の2島は日本に返してもらう。国後と択捉については話し合いでどちらに帰属するかを解決する、という並行協議を提案しました。ところが、その1カ月後に小泉純一郎政権が誕生すると、また4島一括返還論に戻ってしまったのです。それで、プーチン大統領はびっくりした。政権の枠組みは同じでも、人が代われば約束は反故なのか、と」
──安倍政権では「2島返還プラスアルファ」の方針で臨みました。
「18年11月のシンガポール合意は、歯舞、色丹の2島返還に、残る国後、択捉への元島民の自由往来や共同経済活動を組み合わせるというものです。そのときもすでにロシアのクリミア併合問題が起きていたから、米国からロシアに行くなとか、プーチン氏を呼ぶなとかいろいろ注文を付けられました。しかし、安倍さんは『ちょっと待ってくれ。日本には解決すべき北方領土問題や平和条約交渉もあるんだ』と言って、米国から理解を得られたのです」
──一方、ロシアは北方領土で軍事演習を実施し、国後や択捉には地対艦ミサイル、地対空ミサイルを配備しています。
「いま実効支配しているのはロシアですから、ロシアが内政として取り組むのは仕方がありません。軍事演習は、これまでも毎年行っています。日本も日米、日米韓で共同訓練をしているし、最近ではイギリスやオーストラリアも加わって訓練を行っています。自分たちも大規模にやっているのに、ロシアが演習するのはけしからんというのは、日本側の論理ではないでしょうか」