米国では本人の承諾があれば受刑者を撮影しても構わないが、日本では本人の承諾があっても、顔へのモザイクを強く求められる。「せめて、泣いているとか笑っているとかの雰囲気がわかるくらいのボカシにとどめたい」と思い、編集の際、映像を一コマずつ手打ちで加工した。数カ月間続け、腕が動かなくなり注射を打ったこともある。
「本にも一部書きましたけど、とにかく粘って粘ってどうにか声のほうはそのまま残せました」
本書でも、TCのロールプレイ(役割演技)というプログラムでのやりとりが印象的だ。「加害者役」のKさんが自身の犯した強盗事件の様子を語る。他の参加メンバーは「被害者役」になって話を聞く。加害者は避けてきた「自分」と向き合うことになる。被害者役からは口々に「なぜあんなことを」と問い詰められる。嗚咽するKさんに、「それは、ちなみに何の涙なんですか?」と冷めた声が投げかけられる。鳥肌が立つ場面だ。
「もちろん台本なしです。被害者役の彼ら自身も、K君を問い詰めながら、それぞれ自分の事件の被害者のことを考えたりしているのだと思います」
窃盗、傷害致死、特殊詐欺などを犯してきた受刑者たちが、少年時代に虐待やいじめを受けてきたことも彼らの「語り」から見えてくる。
「人は変わりうるもの。ただ、何もしないでは変わらない。こういう働きかけの場が必要だと思っています」
(朝山実)
※週刊朝日 2022年6月17日号