島根県にある、民間が運営に参入する新しい形の刑務所「島根あさひ社会復帰促進センター」に2年間通い、ドキュメンタリー映画を作った。
撮影の中心は、TC(Therapeutic Community=回復共同体)と呼ばれる、グループ対話を軸とする受刑者の更生プログラムの様子だ。TCは米国や欧州で広がっていて、国内では島根が先行して導入している。そもそも国内の刑務所に長期にわたってカメラが入ることが異例で、2020年に同名の映画が公開されると、すぐに話題となった。その撮影時の舞台裏を綴ったのが『プリズン・サークル』(坂上香、岩波書店 2200円・税込み)だ。
「2年間通っても、まったく慣れなくて。午前8時に入り、午後5時に出ていくんですが、いつも全身がガチガチの棒状態になってました」
坂上さんが語る違和感は、受刑者に対する相反した二つのルールから来る。刑務所では食事中や作業中、受刑者間の「私語」は禁じられている。しかし、TCの場では参加者に積極的に「話す」ことが奨励される。
「支援員」と呼ばれる、臨床心理士などの資格をもつ民間スタッフは、「さん」づけで穏やかに受刑者に接する。一方、そこにいる刑務官は「おい、○○」と、呼び捨ての怒鳴り声だったからだ。
坂上さんは長年、米国の刑務所でTCの実際を取材してきた。「凶悪事件を犯した人が、どうしてここまで?と驚くくらいに更生できたのか。それを知りたいという思いが強くありました」