<川崎市の自宅で長男(当時37)を4カ月にわたって監禁したとして、両親と妹の3人が逮捕監禁容疑で逮捕された。長男には精神疾患があったとみられるが、医療機関は受診していなかったという。父親は容疑を認め「外に出して迷惑をかけたくないと思った」と供述しているという>(22年2月1日付朝日新聞)

 家族が負担を抱え込むことなく患者の治療が進むように、精神科医療を中心にさまざまな支えがある。

 なのに、なぜ、こうした悲劇が後を絶たないのか。

 それは、支えにいくつも「すき間」が空いていることが大きい。すき間に落ち込むとき、家族の苦しみは何倍にもなる。

 私自身、何より悩まされたのは、入院治療と在宅治療の間のすき間だった。

 自傷行為をするなど妻が不安定な時期、私は何とか入院させようと必死になったが、妻は嫌がった。だますように車に乗せて強引に入院させたこともあるが、その後、本人は医療への拒否感を強めたように見えた。

 無理もない。本人にしてみたら拉致されるのと同じだ。入院中は携帯電話を取り上げられ、個室に隔離されることもある。日本は先進国の中で飛び抜けて精神科病床数が多く、家族の同意で強制的に入院させる医療保護入院という制度もある。でも、強引な入院は本人の心に傷を残し、その後の治療に支障をきたす場合がある。

 ただ、症状が悪化しているときに自宅で一緒に暮らすのは、正直、家族にはつらすぎる。本人の安全も守れない。訪問看護やヘルパーを利用するにしても時間数は限られ、急変への対応は難しい。

 強制的に入院させるか、自宅で耐え抜くか。家族にとってどちらも苦しい。地域の支えが乏しく、この二つしか選択肢がないことが問題だ。そのすき間を埋める中間の方法があれば道が開けるのではないか。精神科医や精神保健福祉士ら多職種のチームで自宅を訪問するACT(包括型地域生活支援プログラム)など注目すべき取り組みはあるが、実施されているのはごく一部の地域にとどまる。

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