なぜ、人を追い込む職場のいじめは起きるのか。
『大人のいじめ』の著者、坂倉昇平さんによると、近年見られる職場のいじめの背景には長時間労働に象徴される厳しい労働環境があるという。坂倉さんは労働問題に取り組むNPO法人「POSSE(ポッセ)」理事で、労働組合「総合サポートユニオン」執行委員でもある。
「残業が多く休憩が取りづらいなど、過労死するほど過酷な労働環境です。膨大な業務量によって疲労や不満などのストレスがたまると、そのはけ口を会社側ではなく同僚や部下に向けるのです。また、命令に従わせるため意識的にいじめるケースも多く見られます」
坂倉さんによれば、いじめが起きるのは大企業から中小企業まで幅広い。職種は、サービス業や保育・介護といった人間の労働力に頼る「労働集約型産業」に多い。効率的にハードワークをこなせない「生産性の低い」人が狙われやすく、職場に迷惑をかける存在だから「いじめても良い人」として扱われてしまうという。
「しかも、今はコストカットによって人が減らされ、そこに名ばかりの『働き方改革』が追い打ちをかけます。残業時間の上限が決められても仕事量は減らしてもらえず、負担が増えるばかり。こうして、いじめはさらに加速していくことになります」(坂倉さん)
■体形をいじられて涙
一方、いじりもいじめ同様、人を傷つけ苦しめることが少なくない。人をもてあそぶいじりは陰湿ないじめとなり得る。
「おいっ、ドスコイ!」
イラストレーターのharaさん(28)は20年11月、パート先の接客・販売業の店内倉庫で作業しているとき、いきなり声をかけられた。
聞き違いかと思ったが再び、
「おい、ドスコイ!」
と呼びかけられた。振り返ると男性上司が、
「怒った?」
と笑いながら立っていた。
haraさんは、子どものころからぽっちゃりした体形をいじられてきた。コンプレックスから摂食障害に苦しみ、過食嘔吐を繰り返した。しかし、6年ほど前にありのままの体を愛する「ボディーポジティブ」という考え方を知り、自分の体形を卑下しないようにしようと心がけていた。上司からいじられたのは、そんなときだった。