
「行き過ぎた広告やポイントを使い、リスクの告知もなく若者をギャンブルに誘い入れる。運営側は若者から稼ぐのではなく、若者を守る意識を持ってほしい」
政府は今年に入って「ギャンブル等依存症対策推進基本計画」を見直し、投票サイトに注意喚起の表示を設けるなど、依存症対策の充実を打ち出した。競馬のオンライン投票には、1日の限度額設定や利用停止の仕組みも設けられている。ただ限度額設定は利用者自身が変更可能で、家族が利用停止を依頼する場合、診断書の提出を求められるなどハードルが高く、いずれも抑止効果が低いとの批判がある。
前出の松下さんは国に向けてこう要望する。
「競馬が農林水産省、競輪は経済産業省、依存症対策は厚生労働省など関係省庁が多く、過去には調整不足などから取り組みに支障が出るケースも見られた。タテ割りを廃し、実効性ある仕組みづくりに真剣に取り組んでほしい」
日本中央競馬会(JRA)が納める国庫納付金は21年度、3千億円を超えた。一方、同年度の厚労省の依存症対策予算は、約10億円。前出の池田さんはこう話す。
「公営競技で国庫が潤う額を考えると、もう少し予算を手厚くしてもいいのでは……」
■会場でスクリーニング
一方、自発的に啓発に乗り出す公営レース主催者も現れ始めている。京王閣競輪場(東京都調布市)、立川競輪場(同立川市)はレース開催日に、「考える会」と共同で、来場者へギャンブル依存のスクリーニングテストを実施した。ブースには人だかりができ、「オレ、ギャンブルで家2軒つぶしちゃってさ」などと話す人もいたという。両競輪場は今後、依存症の相談カードを場内に置くことなども検討する。
グレイス・ロードには借金を抱え、生活保護を受給する入所者もいる。14年の設立当初、行政は受給にいい顔をしなかった。しかし「卒寮」後、地元で働いて納税する入所者が増え、近年は理解を示すようになったという。一方で金銭的な理由から、入所を諦める人もいる。
「ギャンブル依存症者は、総じて若くて知的水準も高いので、回復支援が社会にもたらすメリットも大きいはず。政府はより多くの当事者が支援にアクセスできるよう、サポートしてほしい」(池田さん)
(フリーライター・有馬知子)
※AERA 2022年6月20日号より抜粋

