写真はイメージです(Getty Images)
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 作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、戸籍上の性別変更について。

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 ここ数カ月、東京家庭裁判所に何度か通う機会があった。隣接している東京地裁には傍聴などで何度も来ているが、家裁は初めてだ。刑事事件を扱う地裁と違い、威圧感を一切感じさせない小さな役場のような雰囲気に驚いた。受付カウンターの向こうで所狭しと働いている職員の机には、コロナ対策用に仕切りが置かれているのだが、これがラップを段ボールに貼って手作りしたようなもの(しかもボロボロ)で驚いた。家裁、どれだけ予算をもらえていないのだろう。

 家裁には、友人の性別変更の付き添いで通うことになった。すんなりいくと思われた性別変更が、書類の不備を理由に突き返されてしまったのだ。知らない方のために説明すると、今の日本で戸籍上の性別を変更するには以下の要件を全て満たさなければいけない。

1:2人以上の医師が「性同一性障害」であると診断

2:18歳以上

3:現に婚姻していない

4:現に未成年の子がいない

5:生殖腺がない、または生殖腺の機能を永続的に欠いている

6:変更後の性別の性器に近似する外観を備えている

 私の友人(Aさんと呼ぼう)は、これらの要件を全てクリアしているのだが、思いがけないことで書類を受け付けてもらえなかった。理由はAさんの診察のカルテがないことだった。日本の病院のカルテの保存期間は、治療完了後5年間である。そのため1990年代に治療したAさんの紙のカルテなどは、この世に存在していないのだ。唯一残っていたのは、子宮と卵巣を摘出した外科手術の記録だ。この手術こそ、Aさんに「性同一性障害」という診断が下りた根拠でもある。そのため、実際には診断に関わってはいないが、手術を受けた病院の医師2人がAさんの診断書を書いてくれることになった。が、この診断書が「不十分、カルテに書かれている詳細を出せ」と家裁に突き返された。

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性別変更はハードルが高い