世界的に人気の韓国出身の7人組グループBTSが6月14日、グループ活動を暫定的に控え、今後個人活動に集中していくことを、自身のYouTubeオリジナルチャンネル『BANGTANTV』で発表した。番組内でその決断に至るまでの思いを赤裸々に語った。
彼らの言葉から見えてきたのは、「アイデンティティーの揺れに対する不安」、「超多忙な生活による語る言葉の枯渇」、そして、「外的要因によるチーム活動の限界」だ。
「どんなチームなのかわからなくなった」
17年ごろから海外で人気を集め、20年に発表した『Dynamite』が世界的ヒット。今年5月には米国のホワイトハウスを訪問し、バイデン大統領と面会し、米国内で広がるアジア系住民への差別問題などを語り合うなど、国際的な影響力を持つ存在に。はた目から見れば、活動は順風満帆に見えていたが、その裏では新型コロナ感染の拡大による計画の狂いと、アイデンティティーに対する葛藤が生まれていた。
メンバーたちは、グループ活動を暫定的に控える理由について、番組内でこう語った。
「(2020年にリリースした)『ON』『Dynamite』前までは、チームが僕たちの手のひらの上にあると感じていたが、その後、僕はBTSがどんなチームなのかわからなくなった。僕は自分の物語を話すために音楽を始めたが、いつの間にかラップを作る機械になった気分になった。方向性を失っている今、一度立ち止まって考えて、また戻ってきたいとずっと思っていた」(RM)
「僕たちはどんな歌手としてファンの皆さんの心に残りたいのか、僕たちはどんな歌手なのか、今になって考えるようになった」(JIMIN)
自らの経験や感じたことを乗せた歌詞が、多くの人たちの共感を呼んできた。だが、超多忙な日々を送る中で、いつしか「話すことがなくなった」のだという。
「僕はこの10年でものすごく変わったのに、考えや経験を熟成させる時間がない。K-POPやアイドルのシステム自体がそれを許してくれない」(RM)
「7~8年前は、伝えたい言葉があるのにスキルが足らず、どうにか絞り出していたが、今は何を話せばいいのかわからず絞り出している」(SUGA)
BTSはより強くなる
長い間もどかしさを募らせてきた彼らが選んだのは、グループとしての活動ではなく、ソロ活動や個人の人生に重心を置いた“BTSのチャプター2”だった。
「バラバラになることで、またくっつくことができる。この決断について否定的に考えないでほしい。健全なプランであると認識していただけたら。これによりBTSというチームはより強くなると思う。今が、BTSのチャプター2に行くのにいい時期のような気がする」(J-HOPE)
背景には最年長JINの兵役問題も
なぜ“今”なのか。理由の一つが、これ以上先延ばしにできない『兵役問題』だ。1992年生まれのJINの軍入隊の先送り期間が、22年末に切れるのだ。事実、JINは動画の中で、こんな意味深な言葉を発していた。
「僕もいくつか曲の提供を受けているが、この子たち(=メンバー)は予定されている時期があるので、僕はたぶん最後に出すのではないかと思う」(JIN)
感じたARMYへの真心
約1時間に及ぶ動画を観て感じたのは、彼らの本音と、ARMYへの真心だった。「そうありたいと願うアーティストとしての自分」と、さまざまな要因により“そういられない”現実のギャップに対するもどかしさ。音楽を愛し、正直なストーリーを伝えたいと願うからこその苦痛。そして、この決断により悲しむであろう世界中のファンに対する申し訳なさ。それらを、7人は正直すぎるほどの言葉で語っていた。文書ではなく動画で伝えたのは、「ARMYとともに」歩んできて、「ARMYのおかげでここまで来た」という思いがあるからこそ、だろう。
最後のあいさつで、RMはこう話した。
「防弾少年団(BTS)を長くやりたい」と涙し、「僕たちが今でも守りたいこと。それは、僕たちが『一つの心』で一緒にステージに立つこと。幸せに話をして、幸せに何かをする。僕が求めることはそれが全てだ。今立ち止まり、緊張を解いて、休むのは、これからたくさんの時間をともに過ごすためだ」
この言葉が、今回の決断の理由を全て語っているのではないだろうか。
これはBTSにとって、未来志向の前向きな決断――。動画の最後、乾杯をした時の彼らのすがすがしい表情が、それを証明している。
(文・酒井美絵子)
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