子どもの頃は、ブロードウェーに憧れた歌手で俳優の大原櫻子さん。演劇好きの両親の影響で、家にはたくさんの演劇書、映画やミュージカルのDVDソフトが並んでいたし、BSやCSの演劇に強いチャンネルを通して、話題のミュージカルを日本にいながらチェックすることもできた。「いつかお芝居を」という夢を抱きながら、小学生のときは、ダンスにバレエ、ピアノや水泳などの習い事にも夢中になっていた。
「中学2年生のときに、ヒップホップ系のダンスの発表会があって、そこに居合わせたテレビ関係者の方に、『ダンサーとしてやってみない?』と声をかけられたんです。それから芸能プロダクションを紹介されたので、『本当はダンサーではなく俳優志望です』と伝えたら、テストの後に、俳優として所属することが決まりました」
その歌声の美しさや演技の確かさで、出演オファーが引きも切らない彼女だが、エポックとなる作品との出会いは、目利きによる“発掘”によって生まれている。スクリーンデビューとなった「カノジョは嘘を愛しすぎてる」(2013年、以下「カノ嘘」)。5千人の応募者の中から選ばれたオーディションでは、音楽プロデューサーの亀田誠治さんらに、その歌声を認められてのヒロイン起用となった。
「初めての本格的なお芝居だったので、すごく楽しかったし、学ぶことも多くて。そのときに、『映像作品では、編集技術に頼れる部分も大きいから、芝居を深めたいなら舞台に挑戦したほうがいい』とアドバイスされたことも印象に残っています。映画の打ち上げで、『好きな歌を歌ってよ』とリクエストされて、小さい頃から大好きだった『ミス・サイゴン』の中の曲をワンフレーズだけ歌ったんですね。そうしたら、その場に居合わせた、舞台プロデュースをやられているマネジャーさんが聴いていて、後日『地球ゴージャスの舞台に出てみませんか?』というお話をいただきました」
確かに、映画「カノ嘘」での大原さんは、本来の、ミュージカル好きな雰囲気は封印されていた。クラシックの素養も持ち、ロックからミュージカルまで歌いこなせる彼女は、ミュージカル関係者からすれば、喉から手が出るほど欲しい逸材だっただろう。16年以降は、年に1本のペースでミュージカルに出演し、コンサートツアーで全国を回り、合間に映像作品に出演するようなペースでの活動が続いていた。