少年のような眼差し。群れ、つるみ、騒ぐことに距離を置く生き方と無縁ではない(撮影/佐藤慧)
少年のような眼差し。群れ、つるみ、騒ぐことに距離を置く生き方と無縁ではない(撮影/佐藤慧)
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 評論家・チキラボ代表、荻上チキ。ラジオ「Session」では、精度の高いニュースが放送される。それはパーソナリティーの荻上チキの力量によるところも大きい。パーソナリティーだけでなく、評論家として、アクティビストとして、荻上はいじめ問題をはじめ、様々な社会問題の解決の道を探る。自身も理不尽ないじめを受けた。人が不遇な状況に陥ったとき速やかに回復できる社会を作ろうと、本気で取り組んでいる。

【写真】荻上チキさんの自宅の仕事部屋

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 いつも冷静に淡々と事実を伝え、論評する荻上(おぎうえ)チキ(40)の声は、その日、すこし張り詰めていた。

「第2次世界大戦も経験した80歳を超えたおばあさんは、自分の家をロシア兵の拠点にされ、自宅の屋根から、スナイパーが隣人を殺しつづけているのを目撃したと……」

 2022年5月14日から24日にかけ、荻上は、親しいフォトジャーナリストら3人とロシアが侵攻したウクライナや周辺国を取材した。360万人が避難したポーランドで支援の実情を視察し、ウクライナの首都キーウへ。そこからロシア軍による住民虐殺があったブチャ、戦場となった近隣のイルピン、ボロディアンカを訪ね、自身がパーソナリティーを務めるTBSラジオの番組「荻上チキ・Session」(月曜~金曜午後3時30分~5時50分)でレポートした。

「チキさん、眠れていますか。心疲れてないかな」「Session」のパートナーで、フリーアナウンサーの南部広美が健康を気遣う言葉をかけた。夜に放送していた先代の番組「Session-22」が始まった13年からパートナーを務める南部は、ニュースを通して物事の見方を深められたり、気づかされたりすることの連続だという。

 数多ある全国のラジオ番組の中で、「Session」は、ラジオの枠を超え、他のメディアにも知られる報道・情報番組だ。ニュースを伝えるだけでなく、専門性をもったゲストに毎回しっかりと話を聞き、データや事実を基に本質を考える荻上の力量が、番組の個性を際立たせている。放送文化の発展と向上に貢献した番組や個人、団体に贈られるギャラクシー賞でDJパーソナリティ賞。番組で展開した「薬物報道ガイドラインを作ろう」で、同賞ラジオ部門の大賞も受賞している。

■転校して始まったいじめ ゲームや習い事が救いに

 南部は番組を担当する前、別の職場で行き詰まり、一時海外で暮らしたことがある。

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