「学校はサブ、家でゲームなどをして遊ぶのがメインと考えていました。いじめられたことをひたすら忘却して、恨みを持ち越さないようにして」
両親は共働き。学校から帰ると誰からも干渉されず、夢中になれるのがゲームだった。テレビっ子でもあり、バラエティー番組を録画してデッキで編集。放送予定のチェックは欠かさなかった。一方で教育熱心な母親に勧められ、小学生の時から、塾はもとより、ピアノ、スイミング、スケート、習字、ボーイスカウトなど通った習い事は10種類ほどに上る。放課後なにもしないという日はなかった。学校と家庭以外にそうした「第三の場所」があったことは一つの救いだった。
「学校がいいと思える要素なんか一つもない。世界はムダでできていると考えていました。形式的には行っておくけど、なくてもいいんだと」
それでも、いじめによる事件は気になった。テレビニュースを食い入るように観た。そして落胆した。学校がいやで休む時もあった自分には、役に立つ情報がないと感じたからだ。
荻上の活動の一つ「ストップいじめ!ナビ」は、自身のそうした経験も踏まえ、やむにやまれず始めたものだ。
きっかけとなったのが、11年に滋賀県大津市で中学2年生がいじめられた末、自殺した事件だった。この時も、メディアは事件を繰り返し大きく報じたが、荻上がいじめにあっていた頃と同じように、社会の理解不足は変わっていないと感じた。
■大学で文学理論の研究 文学を通して社会を読む
いじめについては、日本も含め世界的に1980年代から30年以上にわたり研究が重ねられてきていた。いじめには「傾向」があるという。いじめが起きやすい「ホットスポット」は教室。次が廊下や階段。教室の中のいじめが最も起きやすいのは「休み時間」が圧倒的に多い。学校は自由に動けず、持ち込める私物も制限されている。マンガを読んだり、息抜きしたりすることもできない。いじめは、個々人の心や道徳の問題ではなく、環境が大きく作用していることは、研究者の間では共通の理解だ。だとすれば知見に基づいて改善できるはず。しかしそうはなっていない。もっと社会全体で、いじめの構造や対策などを共有してもらい、提言や啓発活動を通して改善、解決に寄与したい。そう考え、12年からナビの活動を開始。14年にNPOとして法人化した。この間、13年に成立した「いじめ防止対策推進法」成立に向けて、政治家に働きかけもした。
(文中敬称略)(文・高瀬毅)
※記事の続きは「AERA 2022年6月20日号」でご覧いただけます。