「このため、食事や運動療法を中心とした透析患者さんのサルコペニア対策が始まっているのです。正式には腎臓リハビリテーションというもので、2022年からは診療報酬の対象となりました。つまり、保険診療でおこなう治療の一環なのです」
例えば食事療法では、管理栄養士が中心となり指導。特に大事なのは筋肉の材料であるたんぱく質の量を増やすこと。しかし、これが難しい。
「透析前は腎機能への負担から、たんぱく質の制限をされている患者さんがほとんど。なぜ透析に入ったら制限がゆるくなるのか理解できないと、なかなか食べてもらえません」
また、腎臓病の患者はもともと、ミネラルの一種であるリンもきびしく制限されている。この制限は透析後も続く。一方、肉や卵などたんぱく質の多い食材にはリンも多く含まれている。このため、食べてはいけないものと思い込んでいる人が多いのだ。
「しかし、その理解はあやまりです。肉や卵など、自然食品に含まれる有機リンはからだへの吸収率が40~60%。一方、加工食品に多い無機リンは吸収率90%以上ですから、リンの制限に関しては、いかに加工食品を減らすかがポイントなのです」
高齢で食が細くなると肉を取ることが胃の負担になる人も多い。歯が弱く、硬いものは食べにくいという声も。山田医師はそのような患者には、食べやすい卵をすすめている。
運動はどのようにおこなうのがいいのか。山田医師によれば、血液透析の出入り口となる「シャント」に気をつける必要はあるものの、「透析患者がやってはいけないものは少ない。やりたいスポーツなどがあれば主治医に相談の上、できるだけ取り組んでほしい」と言う。
運動習慣がない人はまず、歩くことから。腎臓リハビリテーションのガイドライン(日本腎臓リハビリテーション学会編)をもとに、1日4000歩以上、週に5回以上のウォーキングが推奨されている。
「歩数計をつけてもらい、歩数を血圧の値と一緒に、ノートに記録して、外来受診時に見せてもらうようにしています。歩数を増やすコツとして、クリニックの送迎バスなどを使っている人は、公共交通機関にかえるのもよいでしょう」