それが五○歳前後からピタリと止んだ。当時通っていた歯医者の一言に救われたのだ。ちょうど治療中に頭痛が起こり、そのことを告げると、私の顔や手を見て、
「あなたは血圧が高いんじゃないか。一度二十四時間入院してチェックしてもらった方がいい」
半信半疑だった。低血圧と言われたことはあっても高血圧とは思いもかけなかった。血圧は変動しているので私の場合、ある時間帯に高血圧になるのではないかということで、隣にある日赤医療センターに入院。血圧計をつけて、一晩泊まって検査した結果、歯医者のいう通りだったので、降圧剤の弱いものを飲み始めた。
以来嘘のように片頭痛はなくなり、年齢を重ねても無理なく原稿を書くことも講演もこなせるようになった。片頭痛があったらどうなっていたろう。
あの時の歯医者に感謝である。でなければ、気象病と思って諦めていたかもしれない。
病は自ら作っている場合があるのだ。
下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中
※週刊朝日 2022年7月1日号