人間としてのあり方や生き方を問いかけてきた作家・下重暁子氏の連載「ときめきは前ぶれもなく」。今回は、「気象病」について。
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知人が「ムズムズ病(むずむず脚症候群)」になって、夜なかなか眠れないという。脚に虫が這っているような感じがするそうで、「ムズムズ病」と聞いただけで、私まで痒くなってくる。病院の検査の結果、鉄分の不足だとかで、レバーやプルーンを食べ続けて改善したという。
「もやもや病」というのもある。こちらは日本だけでなく世界中で「もやもや」と呼ばれているそうだが、脳の主要な太い血管が細くなり、かわりに本来細い血管がふくらんで、もやもやした画像として見える難病だとか。
最近さかんに聞くようになったのが「気象病」。「天気病」といった方がわかりが早いかもしれない。天気によって体調が変化して、病的要素を引き起こすことは昔から言われていた。
症状としては、頭痛、食欲不振、憂うつ、メニエール病、ぜんそく、腰痛、肩こり、関節痛など多岐にわたる。
多くは、自律神経のバランスが崩れることから起きる。気圧の低下や気温の変化が原因となり、内耳にある部位がそれを感知しストレス反応として起こりやすい。特に梅雨時というから、まさに今。しとしとと降り出した空を見上げて憂うつになる。
人は言葉に左右されやすい。今まで単に頭痛だの肩こりだのと思っていたのが「気象病」というなにやら立派な言葉が暗示になって、ストレスになったりする。
私は若い時から片頭痛持ちで、気候や気圧の影響があることは気付いていた。
人前に出る職業でもあるので、いかにごまかすのに苦労したか。若かったので何とか仕事もできたが、あのまま年を重ねていたら、とても仕事を続けられなかったろう。薬はだんだん強くなり、それでも時間が経たねば片頭痛は治らなかった。
頭痛が来そうな時はそれとなくわかるようになり、「来るぞ来るぞ!」と待っている時のストレスにも負けそうだった。