欧米で開発された新薬が日本になかなか届かない、「ドラッグラグ」(新薬承認の遅れ)を心配する声が上がっている。欧米との格差が広がれば、患者の負担が増えたり、最先端の治療が受けられなくなったりする恐れがある。
「ドラッグラグの兆しがある」
今年1月、大手製薬会社などからなる日本製薬工業協会(製薬協)のトップ、岡田安史会長(エーザイ最高執行責任者)の発言が波紋を呼んだ。
ドラッグラグとは、日本での新薬の投入が欧米に比べて遅れる状況を指す。同協会のシンクタンク、医薬産業政策研究所によると、過去5年間に欧米で承認された新薬のうち、国内で未承認のものは2020年時点で176品目。欧米で認められた新薬の72%が、国内で実用化されていない。この割合は16年の56%から増えている。
同研究所がさらに国内の未承認薬を調べると、より深刻な状況が浮かび上がった。10~20年の国内の未承認薬265品目のうち、国内で開発を中止、中断したものは33品目(13%)、国内での開発情報がないものも149品目(56%)あった。約7割が、国内では開発に動きがない。
265品目のうち、一番多かったのは抗がん剤で、抗感染症薬などが続いた。
「ドラッグラグというよりも『ドラッグロス』と言ったほうがいいかもしれません」
こう危機感を強めるのは、国立がん研究センター中央病院の副院長で先端医療科長を務める山本昇さんだ。山本さんは、日本市場に入ってきさえしない新薬が増えるという、より深刻な「ドラッグロス」の状況に陥らないかを心配する。
国内におけるドラッグラグは、00年代はじめごろにも医療関係者らの間で問題視された。
「かつて問題となったドラッグラグは、行政や医療機関の努力もあって10年代半ばまでにグッと縮まりました。しかし、現場の感覚では、遺伝子解析や、ゲノム診療技術の開発が急速に進んだ4~5年前ごろから、国内での未承認薬がまた増えてきたように感じます」