山本さんによれば、肺がんや乳がん、大腸がんといった患者数の多いがんの分野では、未承認薬は比較的少ない印象だという。使う人が多い薬は、新薬の承認に向けた国際的な臨床試験(治験)に日本の製薬会社も加わったりして、欧米との格差は生じにくい。
これに対し、患者の少ない希少がんや、ゲノムやバイオといった先端分野の薬の開発は、創薬ベンチャーが手がける例が目立つ。ベンチャー企業は、優れた技術は持っていても大手に比べて資金力は乏しく、投じた資金を早く回収したいと考える傾向が強い。市場の大きな米国に絞って承認を目指すケースが少なくないという。
「例えば、米国で承認済みの『アバプリチニブ』。ある限られた遺伝子の変異により、胃や腸の消化管壁の粘膜下にできる消化管間質腫瘍(GIST)と呼ぶ希少がんに高い効果が期待されているものの、開発したのは米国の新興バイオベンチャーで、もともと日本市場での承認は想定しなかった。日本の医師からも、日本で承認を取ってもらえるように働きかけているのですが、治験さえ始まっていません。今後こうした事例は増えるのではないか」(山本さん)
国立がん研究センターの調査によると、00年以降に欧米で認められたがんの分野の新薬のうち、国内で未承認のものは21年10月末時点で延べ173品目。うち、4割あまりが日本での開発に未着手だ。この中には、米国で画期的な治療薬として迅速な審査手続きが認められた新薬もある。
山本さんが挙げたアバプリチニブは代表例だ。米国の平均卸売価格や実勢価格などをもとにした同センターの試算によれば、1カ月あたりの薬剤費は日本円にして400万円あまりかかる。
「未承認薬を専門に扱う代行業者もあると聞いたことがありますが、一般的に未承認薬は保険が使えず、全額自己負担を迫られる場合もある。海外で治療を受けても渡航費などの費用はかさむ。万一、副作用があった場合は国の救済制度も使えない」(医療関係者)