最近、「干物女」という言葉を耳にしなくなった。流行語大賞にノミネートされてから15年。令和版干物女を探すと、思わぬ進化を遂げていた。AERA2022年6月27日号の記事を紹介する。

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「干物女(ひものおんな)」という言葉を覚えているだろうか。
2000年代に大ヒットした漫画『ホタルノヒカリ』から生まれた言葉で、職場では一見華やかなOLを装っているが、家ではちょんまげヘアにジャージ姿、散らかった部屋でだらだらと過ごし、恋愛や遊びも面倒くさがるような女性のことだ。
07年には綾瀬はるかさん主演でドラマ化され、その実態が世に知れ渡った。その年の新語・流行語大賞にノミネートされるほどの反響を呼び、ドラマの続編(10年)、映画版(12年)も制作された。
最近では「干物女」という言葉も聞かなくなったが、令和版・干物女を探してみると、思わぬ進化を遂げているようで──。
ベッドでスマホの目覚まし時計が鳴った。女性が「ヴヴ」とうなり声を上げて、布団の中でもぞもぞと動く。
これは動画投稿サイトYouTube(ユーチューブ)での一コマだ。ユーチューバーのエミリンさん(28)は10分ほどに編集した「ゴミのような私の休日」でありのままとも思える姿をみせている。
ジャージにダボダボTシャツ、髪はボサボサ。目はあまり開いていない。洟(はな)をかんだティッシュを丸めて投げ、パソコンを開き、アニメを見て、主題歌を熱唱。ベッドでウーバーイーツを食べる。この動画が大ヒットし、200万回近く再生されている。
「リアル干物女」ともいえるエミリンさんは取材にこう話す。
「人が家でダラダラしているリアルな様子って、普通は見られるものじゃないじゃないですか。友達が来る前に掃除するだろうし。普段は見られないものを見たいという視聴者さんの意見を感じたので、出し始めました」
■共感する意見が圧倒的
別の動画では、すっぴん、ヘアバンドの状態でひたすら食事をしている。画面の前でゲップしたこともある。
「意外に、『私も一緒だよ』『やっぱりこんなもんだよね、安心した』『すごい共感した』と前向きな意見が圧倒的に多いです」(エミリンさん)
すっぴんや起きぬけの姿を公開するのは、エミリンさんだけではない。濃淡はあれど多くのユーチューバーが出している。
「以前は、『干物女』と言われていたのですが、今は言われなくなりました。『みんなしてるよね、別に恥ずかしいことじゃないよね』と。生きやすい時代になったなと思います」(同)