私の部屋に来てくれたラクテーション・コンサルタントは、百戦錬磨といった感じの頼もしいおばあちゃんでした。病院の食事、すごく豪華だけど食べすぎじゃないですか? 日本だと脂や砂糖は母乳によくないって言われるんですけど……と恐る恐る尋ねると、彼女はにっこり笑ってこう答えました。
確かにとりすぎはよくないけど、それは自分の体のため。母乳をあげていようがいまいが、脂肪分も糖分もとりすぎはよくないでしょう。母乳のためだけに制限しなければいけない食べ物って、実はほとんどないの。食べ物の内容をあれこれ気にするより、今はとにかくなんでもしっかり食べて体力を回復することよ!
そうですか! と勇気づけられて、その日もデザートにチョコレートケーキを頼んだ私でした。その後退院してから、看護師であるアメリカ人の義母に話を聞いたりネットで調べたりすると、アメリカでもひと世代前には「辛いものを食べると母乳の味が悪くなる」「ブロッコリーはダメ」「トマトもダメ」のような民間信仰があったそうです。しかし1985年にラクテーション・コンサルタント資格試験国際評議会が設立されたり、医学的な研究も進んだりで、今ではそうした民間信仰は「迷信(old wives’ tale)」とする情報が多くなっています。
現在、アメリカで授乳中に控えたほうがいいと指導される食べ物飲み物はこんな感じです。日本の情報と比べると、これだけ? と思いませんか。
・水銀の量が多い魚
・アルコール
・1日コーヒー3杯以上くらいの過剰なカフェイン
・一部のハーブ
ただ日本でも、医学的知見に基づいた情報は増えてきている印象です。特に小児科医の森戸やすみ先生と産婦人科医の宋美玄先生による『らくちん授乳BOOK』(内外出版社)はいい本で、「食べたもので母乳の味が変わる」も「油っこいものを食べると乳腺炎になる」もデマ、と一喝されています。両先生はオンラインでもためになる記事をたくさん出されており、三人目授乳中の今もふむふむと読み耽っています。
でも、これだけ医学的なアドバイスが世に出ても、「おっぱいはお母さんの食べ物でできている」的信仰を持ち続ける人、押し付ける世間の空気、さらには実践するママさんが、アメリカと比べて日本には多い気がするのです。それはなぜか。