集中できない、覚えられない、継続できない──。日々の仕事や勉強で「三重苦」を抱える人は少なくないだろう。 脳研究者の池谷裕二さんに脳の活用法を聞いた。AERA 2022年7月18-25日合併号の記事を紹介する。
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──大人の勉強法について教えてください。大人になって、忘れっぽくなったうえに記憶力が落ちたようで……。なかなか覚えることができなくなりました。
人間の脳力は加齢とともに低下しないことが分かっています。ただ、思春期ごろに脳の性質の転換期があって、それまでは丸暗記できたことが、きちんと理論立てて理屈を理解しないと記憶できにくくなるんです。それで大人になって記憶力が落ちたと感じてしまう。
そもそも脳は覚えていられる量に限りがあるので、重要なこと以外はどんどん消してしまう。さらに脳は他よりもエネルギーを必要とするので、いらない情報は忘れるようになっています。
■歩きながら勉強する
──勉強したことを忘れてしまうのは、脳にとって必要ないと判断したからなんですね。
はい、勉強はそれにあらがわなくてはいけないんです。楽して覚えることはできないですけど、脳をだますことで労力を減らすことはできると思います。
たとえば大人は面白いと思っていないと覚えられなくなっているのが大きな特徴なんですが、逆に面白いと思っていれば記憶力が高まります。好きなスポーツ選手の名前なんかは苦労せず覚えますよね? このときの鍵になるのがシータ波です。ワクワクしたり、感情が揺さぶられたりするときに脳の海馬から出るのですが、シータ波が出ているときに情報が入ってくると、海馬がその情報を重要だと判断して記憶します。面白いのは、シータ波さえ出ていれば記憶力が高まること。実は歩くことでシータ波って出るんです。だから歩きながら勉強するのはおススメです。
また、通常は復習をすることで記憶が定着していくのですが、シータ波の出ている状態で勉強したことは、復習の回数が少なくても覚えられることが分かっています。
さらに興味深いのは、シータ波が出るとさかのぼってその前にあったことも記憶すること。たとえば大震災のあった日、地震が起こる前にやっていたことも覚えていませんか? それが典型例です。だから授業などで先生が時折よもやま話をして、生徒が笑ったりしてシータ波を出すことは大事なことです。