背景の解明は、イデオロギーでもなく、陰謀論でもなく、メディア独自の取材で掘り起こしたファクトをもって帰納法的に進められなくてはならない。

 言論へのテロ、民主主義への破壊、戦前への回帰という紋切り型の言葉では、この事件の真相は見えてこない。

 これは、保守政党と新興宗教、派遣労働者、銃規制のすり抜けといった要素がからむ極めて今日的な事件だ。新聞は智恵を絞って前に出なくてはならない。

 そうでなくては、またもや週刊文春の独壇場になる。14日発売の週刊文春は、統一教会と安倍元首相の関係についても、警察情報ではなく、直接取材で踏み込んでいた。

下山 進(しもやま・すすむ)/ ノンフィクション作家・上智大学新聞学科非常勤講師。メディア業界の構造変化や興廃を、綿密な取材をもとに鮮やかに描き、メディアのあるべき姿について発信してきた。主な著書に『2050年のメディア』(文藝春秋)など。

週刊朝日  2022年7月29日号

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下山進

下山進

1993年コロンビア大学ジャーナリズム・スクール国際報道上級課程修了。文藝春秋で長くノンフィクションの編集者をつとめた。聖心女子大学現代教養学部非常勤講師。2018年より、慶應義塾大学総合政策学部特別招聘教授として「2050年のメディア」をテーマにした調査型の講座を開講、その調査の成果を翌年『2050年のメディア』(文藝春秋、2019年)として上梓した。著書に『アメリカ・ジャーナリズム』(丸善、1995年)、『勝負の分かれ目』(KADOKAWA、2002年)、『アルツハイマー征服』(KADOKAWA、2021年)、『2050年のジャーナリスト』(毎日新聞出版、2021年)。標準療法以降のがんの治療法の開発史『がん征服』(新潮社)が発売になった。元上智大新聞学科非常勤講師。

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