仮放免の場合、深刻なのが医療費だ。国民健康保険に加入できないため医療費は全額実費となる。温井さんたちが支援するクルド人男性(20代)は、がんの摘出手術と抗がん剤治療で治療費が200万円近くかかった。そもそも入管に収容中、腹部の痛みを訴えたが放置された。今も毎月、分割で病院に医療費を支払っているが経済的な負担が大きいという。病気になっても病院に行くのをギリギリまで我慢し、悪化して高額の手術を受けるケースも少なくないと温井さんは指摘する。
「今回、国が声をかければ全国の自治体が手を挙げたように、国がやろうと思えば難民申請者にも様々な支援ができることが証明されました。なぜやらないのか。難民認定が難しいのであれば、ウクライナ避難民と同じように在留資格を与えるべきです」(温井さん)
■「命の選別」が起きる
なぜ、ウクライナからの避難民と他国からの難民への対応がここまで違うのか。難民問題に詳しい高橋済(わたる)弁護士は、まず極めて政治的な判断があったと指摘する。
「日本政府は日本も西側諸国の一員だということをアピールするため、自ら旗を振り、ウクライナの人たちを保護する立場を明確にしました。このスタンスは評価するべきです。そしてそれを、企業や地方自治体、私たち一人一人も無認識に受け入れているのが現状だと思います」
だが、その結果「命の選別」が生まれているという。
■制度運用変えるべき
ウクライナからの避難民同様、日本国内には祖国に強制送還されれば命を落としたり、投獄されたりする危険のある難民申請者は多い。日本も批准している難民条約には、どの国の人であろうと区別しないという、国境を超える人権擁護システムとして当然の前提がある。
だが、ウクライナからの避難民とその他の国から迫害を逃れ来日した人を選別することは命の選別になると、高橋弁護士は批判する。
「命の選別をなくすには、何より難民制度の運用を変える必要があります。今の難民制度は、日本に助けを求めて来る外国人を犯罪者や制度を利用し入国しようとする悪い人たちと見なす建て付けのもとで運用するようになっています。独立した難民認定機関のような組織をつくり、難民条約に則(のっと)った難民保護を行っていくべきです」