「管理人が対応できる範囲は、親族や警察など関係者や関係機関に“つなぐ”ところまで。そこで必要となるのが入居者名簿など、管理組合が収集する個人情報ですが、中には“名簿は提出したくない”といった方や、親族の連絡先は未記入であるケースも増加しています。連絡先の届け出があっても、それを利用して親族に連絡することは、管理組合名簿の目的外利用にあたるのではないかという議論もある」
高齢になっても住みやすい環境づくりには、何が必要なのか。前出の牧野さんは「認知症など高齢期に起こる問題を、居住者が自分ごととして考えてほしい」と指摘する。厚生労働省の調査によれば、認知症を持つ人は2025年には730万人へ増加し、65歳以上の5人に1人が認知症を発症すると推計されている。
「認知症を隠すのではなく、“認知症だから助けてください”と言える環境がどれだけつくれるか。マンションも昔の長屋のように“おばあちゃん、どこに行くの?”“今日はゴミの日だよ”と声をかけ合う環境になれば、互いにもっと住みやすくなるはず」(久保さん)
実際に認知症であることを告げたことで、住みやすさにつながった例もある。母娘でマンションに居住し、母が認知症を発症していたケース。娘から管理組合に「母がひとりで外出しようとしていたら、呼び止めて自宅に誘導するか、管理事務室で一時保護してほしい」という協力依頼があった。管理会社が受託する管理員業務は、管理組合との管理委託契約に基づき実施しているもので、特定の居住者に対する特別対応は、他の居住者から反対の意見が上がることも少なくない。だが理事会で協議した結果、「部屋に誘導できない場合のみ管理事務室で一時保護すること」「期限を決めた対応とすること」など、一定の条件を付した上で、協力することが決まった。
マンションという“社会”における高齢化の波を、どう住みやすさにつなげていくか。傍観者ではいられない問題が迫っている。(フリーランス記者・松岡かすみ)
※週刊朝日 2022年7月22日号より抜粋