檀は、彼が受け持つクラスの布藤鞠子という生徒から、ロシアンブルとアメショーという名前の二人組が登場する小説原稿を手渡され、読んだ後に物語の感想を鞠子に逐一伝える。作中ではこの二人組の物語が、檀の視点と並行して綴られていくのだ。

 このロシアンブルとアメショーが実に良い味を出している。彼らはを連れてきては虐待する<猫ゴロシ>というSNSアカウントと、それを視聴し支援した<猫を地獄に送る会>の面々に制裁を加える<ネコジゴハンター>と呼ばれる人間たちだ。ともに猫好きで野球好き、なのに一方は悲観論者でもう一方は楽天家と性格的には凸凹コンビで、さながらコントのような掛け合いをしながらネコジゴたちを成敗する。伊坂作品では非合法な世界に半ば足を突っ込みながらも、どこかチャーミングで憎めないキャラクターが多いのだが、ロシアンブルとアメショーの二人も例に漏れない。まるでドナルド・E・ウェストレイクの小説で暴れまわっていたキャラクターを彷彿とさせる、愉快で楽しいクライムコメディの登場人物たちなのだ。

 物語が進むにつれ、活劇小説としてのギアがどんどん上がっていくのを感じ取るだろう。そこでは『オーデュボンの祈り』や『ラッシュライフ』といった作品における伏線の妙を感じる展開もあれば、『グラスホッパー』に始まる殺し屋小説シリーズのようなアクション要素も用意されている。後半はこれまでの伊坂作品における見せ場が濃縮された小説になっているのだ。おまけに謎解き小説ファンの琴線に触れるような趣向も添えられているのだから堪らない。

 本書ではニーチェの「永遠回帰」という思想が一つの重要なモチーフとなっている。人は同じ人生を永久に繰り返すだけ、というペシミズムの極致のような考えだが、そのニーチェの思想に対する伊坂なりの返答が本書には込められていると感じた。読み終えたときに、貴方の目には未来はどのように映っているだろうか。

暮らしとモノ班 for promotion
台風シーズン目前、水害・地震など天災に備えよう!仮設・簡易トイレのおすすめ14選