元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。
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先日、口座を持っている銀行から突然電話! 何しろ先日火事を出しかけた身。ヤダ私また何かやらかした? 詐欺に遭ったとか……と思ったら「インフレ対策ご興味ないですか」ですと。いやご心配ありがたいが興味ウルトラゼロやがな。エネルギーもモノもミクロしか買わぬ身には値上げも無力ナリと俄然鼻息が荒くなる。
……と思っていたんだが、燃料代の急激な値上げで銭湯が苦境と新聞で知り、いやいや強気になってる場合じゃねーよと気づいたのだった。だってもし銭湯がなくなったら私の生活どうなっちゃうの? 大浴場で常連のばあちゃんたちとたわいもない話をして1日を終えるのは独身フリーランスの孤独な我が人生に欠かせぬ儀式である。そういえば、愛する近所の豆腐屋も材料がことごとく値上がりしているのに値上げしてないじゃん! なるほど暮らしに密着したものほど商売人は「値上げしづらい」のだ。ありがたいといえばそうかもしれないが、結果店がなくなっちゃったら元も子もないではないか。
先日、日銀総裁の「家計の値上げ許容度が高まっている」発言が批判された。庶民の生活は苦しく値上げなんて誰も許容してないってことなんでしょうが、今回のように原材料費が不可抗力的に上がっている場合、値上げを許容しない社会では誰かがその痛みを一身に引き受けている。その「誰か」はどこぞの誰かではなく身近な庶民なのだと今更ながら気づいたのだった。 なので、最低限の値上げはちゃんとして欲しいと思うに至った私である。苦しいのは皆同じなら、まず苦しさを分け合うところから始めるべきなんじゃないでしょうか。
え、じゃあインフレ対策どーすんだって? これを機に暮らし方を見直すのはどうでしょう。輸入品でなく国産のコメを食卓の中心にデンと据えるというのが私のやり方だ。やってみればわかるがコメって申し訳ないほど安い。常時小食というのも我が健康の元である。銀行に頼らずとも我がインフレ対策は1万通りくらいある。
◎稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
※AERA 2022年7月18日号-25日合併号