本棋戦恒例の勝者記念撮影は、藤井がうさぎの耳をつけたかっこうで、餅をつく写真となった。羽生が自宅でうさぎと暮らし、かわいがっているのは有名で、羽生ファンからすれば、羽生のうさ耳写真をぜひとも見たかったかもしれない。
下馬評では藤井ノリの声が多い今シリーズで、まずは藤井が先行する形となった。しかし第2局先手の羽生が1勝を返せば、王将位のゆくえはまだまだわからないだろう。
藤井が鳴り物入りで棋士となったとき、多くの人は、タイトル保持者の羽生に若き藤井が挑むという構図を思い描いたに違いない。現実はその逆となった。ただし大棋士同士の初めてのタイトル戦で、年長者が、若くしてトップに躍り出た年少者に挑むという例が珍しいわけではない。
90年、20歳の羽生に28歳の谷川浩司(現十七世名人、60)が挑んだ竜王戦。85年、22歳の谷川に37歳の中原誠(現十六世名人、75)が挑んだ名人戦などはそうである。そしていずれも年長者の側が勝っている。
■下馬評をくつがえすか
将棋史を長い目で眺めれば、年長者の側が、勢いさかんな年少者の側に勝つのは容易ではないとわかる。ただし年長者の側が巻き返した例も、以上のように少なくはない。羽生と藤井では32歳ほどの差があるので、さらに条件は厳しいかもしれない。それでも羽生善治は、不可能とも思われた全七冠制覇を達成した棋士である。下馬評をくつがえし、またドラマを見せてくれるかもしれない。
(ライター・松本博文)
※AERA 2023年1月23日号