やまぐち・なおひで/2000年、愛媛県今治市出身。四国ガス勤務、瀬戸内温泉スイミング所属。3歳の時、知的障害を伴う自閉症と診断される。1歳から水に親しみ、小4で水泳を始める。16年、高1のときに全国障害者スポーツ大会に出場。19年9月、世界パラ水泳で男子100メートル平泳ぎを1分4秒95の世界記録で制し、東京パラリンピックの出場内定を得る。その後、20年11月に1分4秒13、21年5月に1分4秒00と、2度世界記録を更新(写真/写真部・松永卓也)
やまぐち・なおひで/2000年、愛媛県今治市出身。四国ガス勤務、瀬戸内温泉スイミング所属。3歳の時、知的障害を伴う自閉症と診断される。1歳から水に親しみ、小4で水泳を始める。16年、高1のときに全国障害者スポーツ大会に出場。19年9月、世界パラ水泳で男子100メートル平泳ぎを1分4秒95の世界記録で制し、東京パラリンピックの出場内定を得る。その後、20年11月に1分4秒13、21年5月に1分4秒00と、2度世界記録を更新(写真/写真部・松永卓也)

 東京パラリンピックは8月29日、水泳の男子100メートル平泳ぎ(SB14)があり、世界記録保持者の山口尚秀(20)が出場する。AERA2021年7月12日号で目標を語ったインタビューを紹介する(肩書、年齢は当時)。

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 身長187センチ、足のサイズは30センチ。足ひれのような大きい足から繰り出される強いキックが、伸びのあるストロークを生む。男子100メートル平泳ぎ(知的障害クラス)の世界記録保持者=1分4秒00=として初のパラリンピックに挑む山口尚秀は「東京パラでは1分3秒台で金メダルをとりたい」と狙いを定める。

 2年前、18歳で初出場した世界パラ水泳で同100メートル平泳ぎの世界記録を出し、パラスポーツ界に彗星のごとく現れた。東京大会が1年延期された昨年は会見で「気持ちが遠くなった」と語ったこともあった。だが、プールが使えなかった時期も「いつ練習が再開してもいいように」と体調や生活のリズムを整え、今できることを大事にした。練習再開後は特に体重移動を意識し推進力がさらにアップ。コロナ禍で2度も自身の世界記録を更新した。

 自国開催で金メダルを期待されて重圧もあるが、そんなときは「何のために東京パラで成果を残したいのかを考える」という。

「金メダルを獲得することで、障害者への見方を一新できればと思っている。障害のある人もない人も輝ける社会に近づけたい」

「尚秀」の名は、山口が生まれた2000年のシドニー五輪女子マラソンで金メダルに輝いた高橋尚子と、プロ野球のスーパースター松井秀喜からとったという。

「世界で活躍していたスポーツ選手ですので、自分も日本代表として2人につながることができればと思っています」

「山口尚秀」の名がパラリンピックの歴史に刻まれるのも、もうまもなくだ。

(編集部・深澤友紀)

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 ■水泳

 五輪の競泳と同様、自由形、平泳ぎ、背泳ぎ、バタフライ、個人メドレー、リレー、メドレーリレーの7種目で競う。ルールも同じだが、障害の程度に応じて特別なスタート方法やゴールタッチも認められている。「身体障害」「視覚障害」「知的障害」のクラスに大別される。知的障害の選手は気持ちのコントロールが難しい特性がある。レースで力を発揮できるよう、各自に合う方法を見つけ、本番に挑む。

※AERA2021年7月12日号に掲載